「たいていの日本の記者は公式のニュース提供源に依存している」
その上でシムズ氏は次のように述べている。「たいていの日本の記者は公式のニュース提供源に依存しており、政府機関、企業、PR会社から提供される情報を滅多に深堀りしようとしない。日本の中央省庁が運営する記者クラブには大勢の記者が所属しており、彼らは省庁の要望に律儀に報じる」。これまた現代の2023年にそっくりそのまま通用しそうな考察で、シムズ氏の眼力に驚くばかりだ。シムズ氏は当時の『週刊文春』編集長だった松井清人氏にも取材した後、同誌編集部の立ち会いのもと、性被害者の元ジャニーズJr.にもインタビューしている。取材当時この元ジャニーズJr.は40代だというから、2023年現在で還暦を超えているはずだ。
「行為を受けている間は不快だったが、嫌だと言って拒んだら合宿所から追い出されるかもしれない」という証言の内容は、現在の2023年に人権救済を申し立ている性加害問題当事者の会のメンバーたちの証言とも似通っている。ジャニーズ事務所の再発防止特別チームの報告書にも、喜多川氏による「性加害の事実が1950年代から2010年代半ばまでの間にほぼ万遍なく存在していた」と記されている。
承知のとおり、ジャニーズ事務所の性加害問題は2000年4月に国会で議題に上がったことがあり、自民党の衆議院議員だった阪上善秀氏が衆議院の青少年問題に関する特別委員会で質問をしている。
この時、シムズ氏は『ニューヨークタイムズ』に2本目の記事を発表。「児童に対して一定の権力を持っている人物が、その児童に対して性的な行為を強要する。もしこれが事実とすれば、これは児童虐待に当たるのではありませんか」という阪上氏と、「性的な行為を強要した人物がこの手引に言います親または親にかわる保護者などに該当するわけではございませんので、私ども、手引で言うところの児童虐待には当たらないというふうに考えております」という真野章氏(当時は厚生省児童家庭局長)による質疑応答を紹介している。
https://www.nytimes.com/2000/04/14/world/lawmakers-in-japan-hear-grim-sex-case.html
シムズ氏による2本目の記事が『ニューヨークタイムズ』に掲載されてから9日後には、イギリスの『ガーディアン』特派員のジャスティン・マッカリー氏も後追い記事を発表。保護者だけでなく、保護者以外の同居人による暴行も虐待と認める児童虐待防止法がちょうど2000年に日本で成立したことを踏まえ、一連の性加害問題や国会での質疑応答などを取り上げている。
https://www.theguardian.com/world/2000/apr/23/justinmccurry.theobserver
さらにアメリカの非営利団体インターネットアーカイブのサービスを使うと、AP通信特派員の影山優理氏も国会での質疑応答について英文記事で発信していたことが分かる(影山氏は今でもこの問題について英語で頻繁に情報発信している)。