2万円ちょっとで電車を貸切に 東急電鉄が差し出す「手の届く非日常」

貸し切られた世田谷線「SDGsトレイン」車内で、SDGsに関わるクイズを出題する青稜中学高等学校「SDGs部」の生徒たち

貸切「バス」なら、誰しも、まずは小学校の頃の遠足での経験がある。もしかすると幼い日、幼稚園の送迎バスで朝な夕なに乗車した記憶もあるだろうし、長ずれば今度は高齢者向け「デイサービス」などの送迎バスでお世話になるかもしれない。

しかし「電車」はどうだろうか? 

新幹線も貸し切れる、が

あまり知られていないが、実はJRや私鉄各線も、修学旅行など以外に「貸切列車」を走らせている。利用目的としては企業の慰安、褒賞旅行や社員研修、各地イベントの移動時間企画などで消費者に訴求しているようだ。

さらに、新幹線さえ貸し切れる。

JTBに問い合わせをしたところ、基本的には、東京駅発で着地は名古屋、新大阪、京都(閑散期に関しては、より近距離の貸切も交渉ベース)。コストは、東京〜名古屋間片道、定員75名の「16号車」貸切の場合で80万円弱だそうだ。ただし、1カ月前から一般客のチケット購入が可能になるので、貸切の場合は、2カ月以上前に申し込みが必要だ。

ちなみに7万円程度で、貸切車両内だけにあらかじめ録音した「部長からのメッセージ」を流す、10万円程度で次の停車駅のアナウンスを消す、などのオプションもつけられるとのことだ。

しかし、やはりコストは数十万円程度と、個人で負担するには現実的でない規模だ。

東急世田谷線なら、「23680円」──

だが調べるうちついに、われわれ個人消費者でも利用できそうな路線を見つけた。東京都世田谷区の三軒茶屋駅と下高井戸駅を路面電車で往復する、東急電鉄運営の東急世田谷線だ。

ちなみに世田谷線の通過駅には小田急線「豪徳寺駅」に接続する「山下駅」がある。そして豪徳寺は無数の招福猫児(まねきねこ)が祀られた招福殿が有名なため、世田谷線の車両に猫がフィーチャーされた(猫バス、ならぬ)「猫列車」が走ることもある。

さて、では貸切「東急世田谷線」は、いったいどんな運行で走り、コストはどれくらいなのか。

まず、区間は三軒茶屋—下高井戸で途中乗車・下車はできない。

時間帯は三軒茶屋発「14時43分」か「15時25分」。もしくは下高井戸発「14時22分」「15時4分」「15時46分」となる。

貸切運賃は一律、片道大人運賃に定員数をかけた額、つまり「148(人)x 160円=23680円」だ。往復した場合は単純に2倍の47360円となる。

高校生たちが車両をジャック!

8月末のある暑い暑い日の午後、都内、品川区の青稜中学高等学校「SDGs部」の生徒たちによる世田谷線「SDGsトレイン」貸切イベントが行われた。車内でのイベントに関しては東急は関与していないものの、「貸切」自体は東急と青稜中学高等学校とのコラボ企画であるという。

あらかじめ招待された成人の乗客たちに、SDGs部の活動が詳しく説明された生徒たち制作の動画がシェアされた後、SDGsに関わるクイズが車内で実施された。

成人の招待乗客向けに、「世界全体で飢餓の影響を受けている人の数は? 1. 6億7800万人、2. 7億8200万人、3. 8億2800万人」といった3択の問題がいくつか出された

成人の招待乗客向けに、「世界全体で飢餓の影響を受けている人の数は? 1. 6億7800万人、2. 7億8200万人、3. 8億2800万人」といった3択の問題がいくつか出された


筆者も乗車し、45分間の貸切運行の行程に参加した(具体的には、14:32にSDGsトレインが下高井戸駅を出発、14:53に三軒茶屋駅で切り返し、15:15、下高井戸駅に到着、ツアー終了)。

下高井戸の駅に入ってきた貸切の世田谷線車両。行き先サインには「臨時」の文字が

下高井戸の駅に入ってきた貸切の世田谷線車両。行き先サインには「臨時」の文字が

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文=石井節子

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