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2023.08.20

アルゴリズム分析で「売れる本」量産、83億円調達のAI出版社日本上陸へ

Getty Images

Inkitt(インキット)はアマチュア作家が小説を投稿、公開できる無料プラットフォームを提供するスタートアップだ。同社はInkittに掲載された小説の「読者による読まれ方」をアルゴリズム分析し、「ヒットセラーになりそうな」小説を選択、別に運営する有料アプリ「Galatea(ガラテア)」で正式に公開するというシステムに乗せて刊行物を次々に世に問うている。また、ストーリー展開のABテストをして読者の反応をみる、といったAI編集機能も実装している。

「ハリー・ポッター」の刊行、出版社13社が断った

つまりInkittは、読まれる小説の卵のデータを「読者から」収集、データ解析、選別したのち、有償で販売する、という、古い出版業界の度肝を抜くような新規のビジネスモデルで大成功している出版社なのだ。

同社のコミュニティにはこれまでに少なくとも、700万人の読者と30万人の作家が参加している。また、コロナ禍の「巣ごもり」期間で読書をする人が増えたこともチャンスとし、5900万ドル(約83億円)の資金調達を達成して話題を呼んだ。

CEOで創業者のAli Albazazが同社を創業した動機は、J・K・ローリングの「ハリー・ポッター」が、出版を13社の出版社から、スティーブン・キングの『キャリー』は30社から断られた事実を知ったことだという。もっぱら勘や主観に頼って作品を選んでいるためにこのような「大失敗」をおかすこともある「伝統的な」出版のやり方をやめて、科学的手法でベストセラーの卵を選別し育てたい、と強く望むようになったのだ。

「大学の学費がまかなえれば」のつもりがなんと20億円──

Inkittという無償プラットフォームで文字通り彗星のごとくデビュー、Galateaからエロティックファンタジー小説「The Millennium Wolves」ほか12作品を出版し、これまでに実に1億2500万ダウンロードの大成功を記録している作家に、イスラエルのSapir Englard(サピア・エングラード)氏がいる。

ボストンのバークリー音楽院に進学を希望していたエングラード氏は、Inkittに投稿した作品が売れた場合、その収益を学費に充てるつもりだった。念願叶って、いや、それどころか、$1400万ドル(約20億円)以上の売り上げからの印税、バークリー音楽院の高額な学費をはるかに、はるかに上回る金額を手にした(現在も稼ぎ続けている)彼女は、このたび同音楽院のすべての課程を修了した。

米国ボストンのバークレー音楽院(Getty Images)

米国ボストンのバークリー音楽院(Getty Images)

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文=石井節子

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