政治

2023.09.15

日本生まれ育ちの外国籍の子と親へ「在留特別許可」措置に思うこと

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8月上旬、斎藤法務大臣は「日本で生まれ育ちながら在留資格が無い子どもとその親」に対し、一定の条件下で在留特別許可を与える方針を発表した。

基本的な要件としては、下記のうち、在留資格が無いものの引き続き日本で生活することを希望している非正規滞在者、とされている。

・日本生まれで日本の小中高等学校に通っている外国籍者の未成年者とその家族
・ただし、親が不法入国・不法上陸その他の出入国管理法の重大な違反や、反社会性の強い不法行為等をしていない者

この発表に対し、保守派・右派からは「不法外国人が急増し日本が崩壊する」との大反対が、リベラル派・左派からは「条件が厳しすぎる」との痛烈な批判が、双方から展開されている。ただし筆者としては、今回の発表は一言で言えば「慎重な人道措置」として大筋では評価しており、保守派・右派もリベラル派・左派も大反対するような話ではないように感じている。なぜそう考えるのか、解説してみたい。

なお本稿では、在留特別許可を求める外国籍者が難民ではない、つまり本国において本国政府の失策や作為・不作為によって差別に基づく迫害を受けるおそれがない、ということを大前提とする。なぜならそのようなおそれがある者は、在特云々でなく難民として認められるべきであり、全く別の議論になるからである。

判断基準のベクトルが「子→親」に

まず、今回の在特措置はそもそも、2006年に策定・公表、2009年に改訂された現行の「在留特別許可に係るガイドライン」で謳われている方針の延長線上にあると言える。普段は粛々と個別案件ごとに「積極要素」と「消極要素」を衡量判断しているものを、今回は集団的に原則論で認める、という運用面での政治判断を発表したものと理解できる。

その上で、現行の在特ガイドラインとの違いをあえて指摘するなら、今までは「親」への在特を判断する際に「子」の状況を勘案していたものを、今回は「子」の状況に基づいて「親」への在特措置を検討することになる。言い換えれば、判断基準の主なベクトルが「親→子」でなく、「子→親」になるのは確かに新しい。今までも同じようなケースに在特を出すことはガイドライン上の「積極要素」を積み重ねれば可能ではあったものの、実際の行政運用ではあまり出されてこなかったものと推察される。

それを今回は、先の通常国会における審議(例えば、4月21日午後の立憲民主党の寺田学議員と法務大臣との質疑)に基づき、法務大臣として判断基準を少し緩めかつ集団的に付与する旨を発表したと言える。例えば従来は、仮に日本生まれであったとしても小学校低学年以下の子どもがいるということは、夫婦ともに外国籍者である親の在特判断に決定的な積極要素としては作用してこなかった。
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文=橋本直子

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