安倍元首相銃撃は「テロ」ではない 事件めぐり出回る2つの誤解

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先週金曜日に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件直後、二件のデマが流れた。一つが「政治テロ」、もう一つが「外国人による犯罪」だ。これらついて、日本では常々大きな誤解がはびこっているようであり、それぞれ解説したい。

どのような表現が妥当か


まず「テロリズム」についてだが、そもそも世界的に合意された定義はない。

「ある人にとっての『テロリスト』は別の人にとっての『自由戦士』」とは英語でよく引用されるフレーズ。どの独裁国家も、反体制派をテロリスト集団とレッテルを貼ることで、政府に批判的な人々を弾圧し自らの独裁体制を保とうとするものだ。

ただし、国際条約の中には「テロ」の定義に近いものを暗示しているものもある。

例えば1999年に採択された「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」。

その第二条(b)では、暴力行為の目的が、一般市民を威嚇したり政府や国際機関に対して何らかの行為を強要するためである場合に限る、としたうえで、そのような行為のための資金提供・収集を禁止している。

また、上記の国際条約を日本が批准するために、国内法として2002年に施行されたのが「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」。第1条でその犯罪行為は、「公衆又は国若しくは地方公共団体若しくは外国政府等を脅迫する目的をもって行われるもの」と定義づけられている。

その上で、人を殺害したり、凶器を使用することなどによって人の身体を傷つけたり、略取、誘拐、人質を行う行為が該当するとされる。

日本の国内法令には、これ以外にも「テロ」の定義があり、警察庁組織令第41条1項では、「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動」と解説されている。

さらに、特定秘密の保護に関する法律第12条2項では、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」と規定されている。

どの国内法上の定義も少しずつ異なっている。国内法にすら統一定義がないことも問題ではあるが、共通項を探すならば、テロリズムとは、国や公的機関に何らかの行為を脅迫・強要する目的、あるいは住民や社会に広く恐怖や不安を抱かせる目的のいずれかのために行われる暴力行為、と言える。

たしかに今回の事件は、広く社会に不安や恐怖を抱かせることに結果的にはなった。ただ、報道によると容疑者の意図は、宗教的・金銭的・家庭的問題による個人的な怨念を晴らそうとしたもの。社会に不安を抱かせること自体が目的ではなかったようだ。

また安倍氏は既に国家元首ではなく「政府や公的機関」に何らかの行為を強要させようとした、とも解釈しにくい。
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文=橋本直子 編集=露原直人

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