安倍元首相銃撃は「テロ」ではない 事件めぐり出回る2つの誤解

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これらの定義と容疑者の意図に鑑みると、今回の殺人は「暗殺」という形容が妥当で、海外メディアはこぞって「assassination」という表現を用いている。暗殺についても国際的・国内的に定まった法的定義はないが、一般的な辞書では「大きな影響力のある要人を、政治や宗教・利害的な目的などで、密かに計画して行う殺人行為」などと説明されている。今回はこのうち「宗教・利害的な目的」に相当するだろう。

事件発生直後には「政治テロ」という表現が一部で流布されたが、それは事実の歪曲だ。さらに悪いことに、政治テロと表現することで、政治家批判・政府批判をすること自体がテロに結び付くかのような誤解を誘引しかねない。

健全な民主主義には、非暴力の政権批判、有権者による国家と政治家の絶え間なき監視と査定が絶対に欠かせない、ということをここで改めて確認したい。

「外国人の凶悪犯罪率が高い」はデマ


もう一つ、特にSNS上で出回ったのが「犯人は外国人または在日」という全く根拠のないデマである。今回の容疑者が外国につながる背景があるという情報は今のところ一切ない。また、少なくとも戦後に日本で起きたテロや無差別殺人・殺傷事件の犯人はすべからく、日本人(日本国籍を有する者)だ。

古い事件では地下鉄サリン事件も、ルネサンス佐世保散弾銃乱射事件も、秋葉原無差別殺傷事件も、相模原障碍者施設殺傷事件も日本人男性によるものとされている。

最近発生した小田急線女子大生殺傷事件も、京王線ハロウィーン事件も同様だ。少なくともそこに外国籍を有する人や外国につながる人が主犯や首謀者として関わったという情報はない。

世間を震撼させるような事件が起きる度に、「犯人は外国人だったのでは」というデマが流れるが、そもそも日本国内でも日本以外でも外国人が凶悪犯罪を犯す可能性が高いという言説は、必ずしも公的データに基づいていない。

例えば、日本の法務省が警察庁の統計に基づいて毎年発行している「犯罪白書」からは、次の事実が抽出できる。
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文=橋本直子 編集=露原直人

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