「高い学費を払って美大にいかなくても、クリエイティブシンキングができる環境を作りたい。そのためには、いっそデジタルの方が、ハードルが低いのではないか」
そう考えたa春は、2年目の時に学生起業して、メタバース「MEs(ミーズ)」を開発をはじめた。MEsをクリエイティブシンキングできる環境とするには、次の3つの条件が必要だと考えた。
1. 言語化前のアイデアの種と、思考プロセスが散らばっているアトリエ
2. 個性豊かで、発想力に長けた仲間から受ける批評と刺激
3. それらによって、思いもよらないアイデアが何度も生まれるフロー状態
これを実現するため、MEsはファイル形式を限定せず、画像、動画、音声、3Dオブジェクトなどを、見たままの状態でメタバース空間に配置できるようにした。
これまでのコンピュータでは、デスクトップ、フォルダという概念はあっても、あくまでも2Dだ。Wordで作成した企画書、スマホで撮影した写真、illustratorで描いたイラストなど、ファイル形式が異なる大量のデータを同じ場に並べてアイデアを練ることはできない。MEsでは、異なるデータ形式のファイルを違うアングルで並べ直したり、同じデータを様々なコンテクストに置いたりして、気づきを溜めて着想を得やすい空間となっている。
アイデアの墓場は宝の山になる
MEsの中では、「ワールド」と呼ぶプロジェクト空間を作ることができる。晴れ渡った草原、美術館のような真っ白な空間、会社のプロジェクトルームなど、目的や自分の気分に応じてワールドを使い分けることで、作業効率が上がり、クリエイティブシンキングも促進されるという。現実世界で、たとえば会社の会議室でワークショップを行う場合、アイデアは付箋に書いて模造紙に貼ったり、ホワイトボードに書いたりする。ディスカッションの途中に会議室が終了時間になってしまうと、慌ててスマホで撮影する。そして、その写真は意外と見返さずに終わることが多い。
MEsでは、ワールドをプロジェクトルームとして途中保存することでき、いつでもどこからでもディスカッションを再開できる。このワールドの公開範囲は調整可能。SNSで起こりがちな誹謗中傷から離れれば、健全な批評がアイデアを育てることを実感できるだろう。
また大切なのは、途中で採用せずにボツになったアイデアたちを保存できることだ。MEsではデータはもちろん、データに紐づくコンテクストごと保存、検索し、それをユーザー同志で共有することができる。
「使わなかったアイデアは宝物。いつか別のプロジェクトで使う日がくるかもしれないし、他の誰かにはヒントになることがある。MEsのワールドを散歩することで、そこで出会うユーザーからヒントと刺激をもらい、クリエイションが深まります」
建築家や大学とのコラボレーション
MEsは2024年初旬の一般公開を前に、建築家、大学、クリエイターとのコラボレーションにより、機能を充実させている。日本を代表する建築家·隈研吾、クリエーター集団Anyとのコラボでは、ビルのリノベーションを起点に多様な人々が集まり賑わうメタバースのワールドビルディングをOが担った。 オープニングでは大阪、東京、ドイツのベルリンにいる登壇者がリアルタイムでこのメタバースに集まり、活発な交流が行われた。