また、MEsではクリエイターとコラボレーションし、彼らのワールドを構築している。クリエイターとファンはMEs内で集い、アーティストの世界観に没入し、作品をつくるプロセスの画像や素材類を近くで体験することができる。クリエイター同士、お互いのワールドを行き来することも可能だ。
次は会社そのものに「美大」を取り込む
コンピューターと人の関係でいえば、機械的な思考はコンピューターに任せ、人のクリエイティブな活動は物理空間で、と考える人が多いだろう。実際、今世界中には「人間が考えなくてすむ」デジタルツールが増加傾向にある。しかしa春はあえてその反対をいき、コンピューターの中で人間の右脳的な活動をしようとしている。マウスやデスクトップなど、人の可能性を引き出す中で進化を続けてきたコンピューターと人の関係に、新しい1ページを加えようとしているのだ。a春はそれを、「コンピューターへのラブストーリーのようなもの」と表現する。
さらにOは、MEsのプロダクト開発の先に、美大と社会の融合を目指している。物理的な空間を離れた美大が、誰もが意識せずに使う「OS」のように、インターフェースとして実装された世界だ。そのステップとして、まずはOの社内で挑戦を始めている。
「アイデアを育てる力、クリエイティブスキル、共感力を身につける美大の環境を、Oの社内に物理的に取り入れる実験をしています。その先には、他の企業や幅広い人たちが、MEsを使うことで、美大のような環境に日常的にアクセスできるインターフェースになっていくことを目指しています」
MEsは今、東京をホームベースに、グローバルなメンバーとアップデートを重ねている。東京を開発拠点に選んだ理由は、「シリコンバレーに影響されたくなかったから」だ。日本から世界を目指すスタートアップが多い中、逆流ともいえるこの流れは、私たちは日頃見失いがちな日本の価値を再発見させてくれる。
米国生まれ、日本育ちのMEsが一般公開されるのは2024年。どんなアイデアがMEsから生まれていくのか、楽しみに待ちたい。
a春(アハル)◎O Ltd./ O株式会社のCEO | Artist 次世代のWork&Playのための Spatial Computer ”MEs”を開発中。Rhode Island School of Designでインダストリアルデザインとコンピュテーショナルアートを学ぶ。感性と知覚を覚醒するインターフェースで、New Humanのためのクリエイターカルチャーを広めることを目指す。