アート

2023.09.21 08:30

エアビー創業者を輩出した美大から新生 謎の経営者「a春」とは

顔は50通り、ボルトは500通りに描く

RISDの1年目は、どのコースの学生も同じ基礎を叩き込まれる。ドローイング、デザイン、美術史などの授業を通じて、それまで持っていた知識と技術をアンラーンする。

a春が受けた最初の授業を担当したのが、後にOのChief Culture Officerになる教授ニッキー・ユエン(Nikki Juen)だった。彼女が話した次の言葉を、a春は今でも鮮明に記憶しているという。

「アートやデザインは、私にとって自分を取り巻く世界を理解し、コミュニケーションする道具にすぎない。私にとって『教育』は媒体(メディウム)であり、私の精神と身体はこれらの世界を探求するためのインターフェースとして存在する」
RISDで優秀な教授に贈られるジョン·R·フレイジャー賞を受賞しているNikki Juen

RISDで優秀な教授に贈られるジョン・R・フレイジャー賞を受賞しているNikki Juen


その授業は哲学的だ。あいまいさ、不安定なものをどう紐付け、関係性を表現に育てていくかを学んでいく。毎週ハードな課題も出された。

たとえば、1週間で500枚のスケッチを描くという課題。絵のモデルは、なんの変哲もないボルトや糸巻きといったモノが選ばれた。色、コントラスト、構図などを描き分け、少しでも同じ描き方をしたスケッチはNGとなる。最初はボルトの形、大きさ、色などを目で見て描こうとするが、徐々に素材、歴史、工業などボルトが持つ情報を分岐して考える方法を身につける。どんな対象でも、具体から抽象まで描き分けられるように鍛えるレッスンだ。
自分の顔を50通りに描くワークでは、泣いたり気が狂いそうになったりした(写真:a春本人)

「自分の顔を50通りに描くワークでは、泣いたり気が狂いそうになったりした」(a春、写真=本人提供)


また、ユエンは学生がたどったプロセスをヒアリングする力、否定ではなくギブとしてアドバイスする力に優れ、アイデアを育てるための批評を提供した。学生は彼女の批評に何度も応じるなかで、全く新しい着想、技法を学んでいく。

「アイデアを生み出す力は、才能ではなく鍛え上げる技術だと実感しました。また、媒体を選ばず表現できるようになったことで、アニメーションへのこだわりは薄れていきました。それよりも、どうしたらこのようなクリエイションが再現できるのか。その方法へと興味が向いていきました」
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文=鶴岡優子

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美大で覚醒するスタートアップ

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