アート

2024.03.13

藝大発、音のスタートアップ 「聴きすぎない音楽」で社会に貢献

「これ、中毒性のあるメロディーだよね」

ヒットチャートの上位を占める音楽を、「中毒性」という言葉で表現することが増えた。繰り返し流れる音や言葉が耳に残り、しばらく頭から離れなくなる体験は誰しも経験したことがあるだろう。 しかし、一人で集中したい時、誰かと会話したい時は、何かを主張し、意識を遮る音楽はむしろ邪魔だ。ラジオはつい話を聴いてしまうし、完全に無音の空間も落ち着かない。

こうした悩みを「聴きすぎない音楽」で解決しようと挑戦しているのが、東京藝術大学発ベンチャーのcotonだ。AIで自動無限生成する「soundtope」をはじめ、音・身体・生活・テクノロジーをキーワードに最先端のソリューションを提供している。

中毒性とは対局にある「聴きすぎない音楽」とは、どんな音楽なのか。cotonが目指す新しい音体験について、CEO松尾謙二郎氏と顧問の古川聖氏に話を聞いた。

「リアルタイム無限生成音楽」を体験

cotonの研究拠点、東京藝大の古川教授の部屋で、まずは「聴きすぎない音楽」を体験させてもらう。coton が無料公開した「soundtopeWB(well-being)」ベータ版は、ウェルビーイングな音環境を整えるWebアプリケーションだ。PCやスマホで簡単に聴けるので、ぜひ体験してみてほしい。

soundtopeWBを起動してみると、音楽のような、音楽でないような不思議な音色が聴こえてくる。耳を澄ましてみると、タラランと奏でるメロディーのような音、タン、パンといったランダムな音、その後ろにアナウンスの声や雑踏の気配のような音も混ざっている。メロディーを追いかけようとしても追いかけきれず、そのうち聴くこと自体を意識しなくなってくる。

ユーザーは気分や好みに合わせメニューを選択する。musicタブでROSE、LILY、IRISといった花の名前からイメージに合うものを、natureタブはCAMP、AIRPORT、RAINFORESTなど自然や都市の場所から選択する。この組み合わせにより、音楽が無限に自動生成される仕組みだ。

ROSEとAIRPORTからROSEとRAINFORESTにすると、空港で聞こえるアナウンス音が弱まり、雨の降る森の中へなめらかに音が切り替わっていく。深く深呼吸したくなるような、しっとりとした音の景色に包まれる。生成された音楽が気に入ったら、保存やシェアすることも可能だ。

soundtopeWBはインストール不要。Webで簡単に聴くことができる

soundtopeWBはインストール不要。Webで簡単に聴くことができる


「ラジオや人の会話を聴きながら文章を書くのが難しいのは、同じ“言語を扱う作業”のために脳の認知的リソースがぶつかってしまうから。一方、何も音がなければ雑念が浮かんでくるのが脳の仕組み。適度な刺激、認知的負荷をかけシールドすることによって、作業により集中することができる。こうした音楽の脳内認知のプロセスが解明されてきた背景を受けて、soundtopeは改良を続けている。

soundtopeは音が適度にグルーピングされた「音楽」と、個別のランダムな「音楽でないもの」の境界領域で、主張しすぎず作業を邪魔しない。この境界領域にさらに自然音、環境音をさらに重ねることで、音、音楽と聴いている空間がリンクするようになっている」(古川)
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取材・文=鶴岡優子

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美大で覚醒するスタートアップ

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