小屋松はチームの全体練習のあと、夕方や夜の時間帯にアイデアやアプリの中身を考え、2週間に1度、エムアイメイズの会議に出席。そこで開発の進捗を見たうえで、アスリート目線でアプリの方向性について意見を出した。週に1度はathleticaアカデミーとの面談もあり、進捗報告や悩み事の相談を行った。
この複業体験は苦労もありながら、ポジティブな効果もあったと小屋松は話す。
「サッカーではピッチ上に立てば上下関係はなく、直接的な物言いも普通です。しかしビジネスの現場だとそれだと角が立つこともある。業界用語やちょっとした敬語の使い方なども含め、コミュニケーションを円滑に取るうえでの苦労はありました。
ただ、アイデアが実際に形になっていく過程を肌で体験できたのは収穫ですし、将来的に会社員として働いてみたいという気持ちも芽生えています」(小屋松)
他にも、インドネシアのサッカーリーグでプレーする山口廉史は、PR会社「アンティル」で、インタビュー記事やプレスリリースの制作を行った。山口は将来的にコーヒー豆の販売をやっていくという目標を持っており、そのためにPRの基礎を学べる場所を選んだという。
アビスパ福岡の田代雅也(サッカー)やH.C.栃木日光アイスバックス伊藤俊之(アイスホッケー)も、企業のソーシャルメディア活用支援を手がける「アライン」で複業をした。そこでは FIFAワールドカップやワールドベースボールクラシック期間中の大会公式Twitterの動きについてレポート作成業務を経験した。
本業の空き時間を使いながら、将来像を実体験として掴むことができる「複業」が、プロスポーツ選手たちのセカンドキャリア支援にフィットしているのだ。
企業側は選手たちの「目標達成力」に期待
企業側からの引き合いも多い。「現役スポーツ選手の目標達成力やチームワーク力を会社に取り入れたいという声は多い」と大林は言う。実際にアナザーワークスでも、複業として名古屋グランパス(サッカー)の丸山祐市をカスタマーサクセス部門に起用。アナザーワークスのファン顧客づくりを目的に、丸山が普段実践しているファンとのコミュニケーション方法を社内に共有するといったケースもある。
また、丸山が本業のクラブチームで意識しているプロフェッショナル精神について社員に講演するなど、企業とアスリート双方向でメリットを享受している。
ただ、小屋松の話にもあったように、アスリートはコミュニケーションの取り方ひとつでも会社員とは異なるため「伴走する現場メンバーを1人つけることは必要」(大林)だという。
現在、アナザーワークスでは積極的にロールモデルづくりに注力している。大林は次のように目標を掲げる。
「最初は実験のつもりで始めましたが、いまは社会貢献性のある事業であるという実感があります。今後、2年以内に計100名の複業マッチングを創出します」