NASAの総予算は10兆2300億円
スペースXが開発中の史上最大のロケット&宇宙船「スターシップ」。アルテミス計画においては有人月着陸船として使用予定(SpaceX)無人探査機によって氷の所在を確認したら、今度はヒトを月面へ送り込み、ミッションの確実性を上げることになる。現時点では2025年の「アルテミスIII」計画によって、4名のクルーが月周回軌道に投入され、うちの2名が月面へ降り立つ予定だ。
有人探査の初期には、クルーは着陸機などに滞在するが、長期滞在ミッションが始まるころには月面に居住モジュールが設置され、これにレゴリス(月の砂)を覆い被せることで、クルーを有害な宇宙放射線から守る。その内部では月の水と、クルーが排出した二酸化炭素を活用して宇宙野菜が栽培されるとともに、培養肉も現地生産されるだろう。
月には100種類以上の鉱物があると言われており、そこにはレアメタルも含まれると考えられている。また、ほぼ大気がない月面は太陽風に晒されるため、地球ではほとんど採取できないヘリウム3が豊富にある。これは昨今開発が進む核融合発電の燃料になるため、未来の資源と目されている。
月地表の重力は地球の6分の1であり、月面から軌道上へ物資を打ち上げるコストは安い。月で得られたこれら資源を、地球の大気圏再突入に耐えられるコンテナに積載して投下できれば、そこには地球とつながる新たな経済圏が生まれるはずだ。
こうした一連の月開拓を実現するために、米国が2019年に開始したのがアルテミス計画であり、その実行のためにNASAは、新型の有人宇宙船「オリオン」と、超大型ロケット「SLS」を開発した。また、月周回軌道上の宇宙船オリオンから、クルーを月面に着陸されるために、スペースXが着陸船「スターシップ」を開発しているが、NASAはその開発費として同社へ28億9000万ドル(3179億円、1USドル/110円換算、2021年時点)を提供している。これと並行して、月軌道を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設も予定されている。
この壮大なアルテミス計画のために、米政府は2021-2025年における総予算として、なんと930億ドル(10兆2300億円、1USドル/110円換算、2021年時点)を計上している。
ただし、米政府が莫大な予算をアルテミス計画につぎ込むのは、鉱物などから得られる実利を求める以上に、財政政策としての側面が強い。この圧倒的な宇宙政策によって他国をリードし、月における覇権を確かなものとすると同時に、これまでの軍需産業とは違う宇宙開発分野において、雇用と需要を創出し、米国経済を活性化させようとしている。