海外

2023.08.18 10:00

スタンフォード日本人講師が伝授 「医療起業」志望者が学ぶ思考プロセス

また、開発にかかる期間も民生品に比べて長い。そうした特徴を踏まえ、イノベーションを進めるための「思考のプロセス」を教えています。ビジネスにすることは研究することと違います。顧客視点でペイン・ニーズを追求する思考法は、研究者にとっては簡単なようで難しいのです。 受講生は世界中から応募してきますが、選抜されるのは、年間8名〜12名程度。全員が離職して参加するなど、退路を断ってきています。
 
──プログラムを日本にも導入していますが、スタンフォードとの違いは。

スタンフォードには、ロールモデルとなる成功者が身近にいるので、「俺もできるんじゃないか」と思える環境があります。例えば、アメリカでは臨床医からキャリアチェンジして、医療関係の企業で働いたり起業したりすることは珍しくありません。方法が違うだけで「人を救う」という目的は一緒、という考え方です。

ただ日本では、一度民間企業に出てしまうと、大学などのアカデミアに戻るのが難しいという現状があると思います。

一方、日本とアメリカのどちらにおいても重要性が高まっているのは、「人財育成」です。こちらで民間企業の幹部らと話す機会がありますが、彼らはスタンフォードに、イノベーションそのものを期待しているわけではありません。「イノベーションを起こせる人材の育成」を望んでいます。バイオデザインでは、徹底した顧客志向によるビジネスアイデアの創出を行い、最新の起業知識を学び、経験豊富な起業家などからのメンタリングを受けます。また、プログラム期間中に優秀な仲間との切磋琢磨が行われます。それらを通じて、イノベーションを起こせる人材が育成されていきます。

教育の良し悪しは国によって異なりますが、日本に輸出されたバイオデザイン・プログラムが、こうした人材の育成に繋がることを期待しています。

世界トップ大学で「チャンスを掴む」

──池野先生は世界のトップ大学で22年も活躍されています。ここに至るまでの道筋を教えていただけますか。

私は駄菓子屋の息子として生まれました。小学生の時に父が脳卒中で倒れて半身不随で寝たきりになり、母が必死で働いている姿を見て育ちました。それでも「高校だけは行こう」と勉強して県立トップ校に進学しました。進学後は「大学に行きたい。医者になりたい」と勉強し、学費無料の自治医科大学に合格。今の環境から抜け出し、その先で得られた環境が人生を変える。そう思える体験が、この頃ありました。

自治医科大学卒業後には9年間、僻地を含む地域医療に携わり、その後の進路を悩んでいたところ、たまたまのご縁でスタンフォード大学にやってくることになります。ただ、振り返ると、それ以前に2度アメリカを経験していたことが大きかったと思います。
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文=芦澤美智子、尾川真一 編集=露原直人

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