日本通運流、社員のモチベーションを一変させる方法

古江忠博|日本通運

できる営業マンほど顧客情報を明かしたくない。過去に失敗した営業情報の共有化。その必要性を現場に浸透させるには、会社が本気だと伝えることだ。

コロナ禍、ウクライナ情勢、トラックドライバーの残業規制が強化される2024年問題──。

モノを運びたくても運べない、先が見通せない状況下で2022年1月、営業戦略本部長に就いた古江忠博が推進役となって、日本通運はプロアクティブソリューション営業に進み始めた。価格競争に陥りがちな営業から、「少量多品種の製品を細かく配送したい」など、顧客の「ありたい姿」を起点に課題を洗い出し、解決策を設計・提案する営業スタイルへの移行。その実現に必要となる、顧客の声を記録、共有化し、提案に活かすデータドリブンの営業マネジメント変革に取り組んでいる。

国内約4000人の営業従事者がもつ顧客に関する情報は、部署を横断するような大規模なプロジェクト以外は共有されることなく、収集して蓄積する環境も未整備だった。

2022年1月、新たなホールディングス体制による「NXグループ」への刷新とグループの新統合拠点「NXグループビル」への移転に合わせ、営業DXツールとしてSansanを全社に導入。社員が所有する名刺をデータ化し、営業活動で得た顧客の情報は個人で管理せず、Sansanのコンタクト機能を使って記録・共有することをルール化した。「例えば、新工場をつくるといった情報が入ったら、担当者を集めたアカウント営業会議を開いて提案の戦略・戦術を考えるなどの活用につなげています」と古江は話す。

今回の変革は、10数年前のSFA(営業支援システム)導入の失敗を教訓にした。何のためにやるのか、その目的が現場に伝わらず、できる営業パーソンほどノウハウの共有に抵抗し、活用が進まずに数年で中断した。同じ轍てつを踏まないよう古江は、月1回の執行役員会で毎回自作の資料を用意し、案件化する前の顧客の情報を共有して「組織知」とする必要性を繰り返し説明。役員の理解を、支店長、部長、現場へと浸透させた。

加えて重要視したのは、上層部の積極活用だ。営業担当が入力した情報に、役員を含む上司がコメントや「いいね」を返すことを徹底させた。「役員も見てくれているとわかれば現場のモチベーションが上がる。コメントによる上司のアドバイスが若手の育成にもなる」と狙いを話す。
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文=斉藤泰生 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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