アート

2023.08.17 09:00

英老舗リバティが繋ぐアートヒストリーの「前衛」とは

鈴木 奈央
この詩に最初に出会ったのは、大学時代、山内久明先生という英文学教授の授業でした。内容はすっかり忘れていましたが、朗々と英文だけを読み上げていく張りのある山内教授の声だけが記憶に鮮やかに残っていました。

20歳そこそこの学生にこの詩の本当の意味などわかるわけもなかったのですが、数十年経った今、「ヴォーティシズム」という言葉が引き金になって「エズラ・パウンド」と高らかに発声する山内教授の声が思い出され、ようやく、あの時に出会ったあの詩のことばが渦を巻き始めました。「何にも似せてない」ピカソの絵がこの詩に影響を与えたという意味も、理解しました。

過去と現在のすべての生命力が、混沌とかきあつめられ、渦巻きとなって大きな原初的エネルギーを放出し、時に予想を超える形で周囲へ、未来へと影響を与えていく、これが「前衛」のイメージであり底力であるということを、パウンドの言葉によって実感します。

ちなみに、リバティの創業者が建物の上に黄金の船を置いたように、パウンドも自分の創作方法に航海のイメージを用いています。「ペリプラム、それは地図に書いてある土地ではなく、船乗りが発見する海岸である」というフレーズが出てくる詩があります(The Cantos: canto 59)。

パウンドにとって詩を創るということは、定められたゴール、あらかじめ決められた完成形をなぞるようなものではなく、それこそジグザクと航海しながら、一つ一つの海岸を探索していくかのように進みつつ創り上げていくようなものであるということを示唆しています。
ロンドンのリバティ百貨店。屋根の上には船が据えられている(Mykolastock / Shutterstock.com)

ロンドンのリバティ百貨店。屋根の上には船が飾られている(Mykolastock / Shutterstock.com)


起業家であれ詩人であれ、世界にインパクトを与える新しい創造を行う人が、同じような航海のイメージに行きつくことは、あながち偶然とは思えません。手っ取り早い「方法論」の誘惑が世に乱立しておりますが、ジグザクと航海しながら方法そのものを自分で獲得していく、その積み重ねのプロセスそのものがラグジュアリー創造に至る王道であることを、リバティ創始者は教えているように思えます。

文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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