リバティのアーカイブを創ってきた歴史上の「前衛」たちを再解釈し、現在と未来へのビジョンもかきまぜながら、ぐるぐると渦巻きのように沸騰させ、そこから出現させた新たな前衛が、あの軽やかな幾何学パステルコレクションなのだと理解しました。
未分化の諸要素を巻き込んだ渦巻きのエネルギーから前衛が生まれ、それはまたのちにどこかで渦巻きを形成してさらなる前衛を生み、未来へと続いていくというイメージは、ファッション史を見るうえでも腑に落ちるところがありました。まだ「ファッション史」など学問として確立していなかった1960年代、RCAやセント・マーチンズで教鞭をとっていたバーナード・ネヴィルは、学生たちにウィリアム・モリスやラファエル前派、バレエ・リュスに関する見方を教えるのです。
ジャンルを超えた過去の前衛芸術の記憶が渦巻くところから刺激を受けた1965年後期~70年代のファッションデザイナーのなかに、オジー・クラークやザンドラ・ローズといった教え子がいました。当初は奇抜とみなされていましたが、彼らは後々の「前衛」デザイナーたちにいまだに多大な影響力を及ぼしています。
リバティの歴史の骨格をなす前衛のイメージを鮮やかに言語化したイギリスの詩人が、ほかならぬエズラ・パウンドでした。安西さんが、未来派とキュビズムが影響を与えたと位置付けている運動、ヴォーティシズムの旗手でもあります。パウンドは1914年に「ヴォルテックス(渦巻き)宣言」を雑誌「Blast」に発表します。そのなかにこのような表現があります。
「すべての経験がこの渦に押し寄せる。すべてのエネルギーに満ちた過去、生きているすべての過去、生きるに値するすべての過去が。(中略) 人間の渦の中にある未来のデザイン。生命力のあるすべての過去、未来に生きることのできるすべての過去は、渦の中で孕まれている」
「ヴォルティシストは、類似や模倣に頼らない。 絵画において、最愛の祖母や愛撫しがいのある愛人に似せた絵を描いたりしない。ヴォルティシズムとは、弛緩したり精巧になったりしながら二次的に応用されるようになる前の芸術である」