アート

2023.06.15

ミラノデザインウィーク、「ヤマハ」の展示が秀逸だった理由

2023年ミラノデザインウィークの様子(Getty Images)

4月にミラノデザインウィークが開催されました。毎年、郊外で行われるミラノサローネ国際家具見本市と同時期に主に市内で行われる展示イベントを総称してミラノデザインウィークと呼ばれています。昨年、ミラノサローネの代表にインタビューした内容は「インテリア業界が『新しいラグジュアリー』の宝庫である理由」に書きました。

ミラノデザインウィークは、展示数が500以上とされていますが、データでおさえきれていないほど数多くのイベントから成り立っています。したがっておよそ1週間の開催中に自分で納得できるリサーチをするには、テーマを絞らないと厳しい。

ぼくは、サステナビリティに焦点をおき、具体的にいえば「展示のためだけの無駄な什器を排しているか?」を今年のテーマとしました。展示で使われた什器の再利用が想定されているのなら評価に値します。しかし、「再利用します!」と言いながら実際は廃却していることも多々あるでしょう。これは見せかけの環境対策「グリーンウォッシュ」として強い批判の対象になります。

よって展示の現場で、什器が少ないなか商品や作品が良く表現されているか? という視点で見て回りました。

「什器」を必要としない空間とは

そのなかで、サステナビリティと新しいラグジュアリーがちょうどよく交差している事例として注目した展示をひとつご紹介します。楽器のヤマハが借り切った小さなアートギャラリーがとても豊かな空間を提案していたのです。

まず、写真をご覧頂くのが良いでしょう。ギターが立て掛けてあります。そして、この立て掛けの支えとなっているのがスツールであるのが分かります。
次の写真はギターケースに見えます。これも実はスツールになるのです。つまり、一見、什器に見えるものが「座る」という機能を担っている。多義的です。展示のための什器をあらたに作ることなく、ライフスタイルを提示していることになります。これに加え、使用しなくなったギターの弦を壁にかける「花器」に飾るとのシーンまで演出できます。なかなか素敵です。これを見ながら、ぼくは一つの考えに至ります。コンテクストをよく読み切る展示は什器を必要とせず、結果的にサステナブルである、と。もう少し説明しましょう。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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