最後に、戦車の主砲も砲弾も、榴弾砲と違って、「装填、発射。装填、発射」を何時間も続けるような、高速で反復的な戦闘テンポを想定した設計にはなっていない。榴弾砲などの砲身は長時間の連続使用に耐えられるように造られているが、戦車の砲身は酷使されると過熱し、垂れ下がり、射撃精度も落ちてしまいがちだ。
要するに、T-54/55は大砲としても使えはするものの、あくまで便宜的なものにとどまるということだ。即席の榴弾砲としては、D-10Tは射程も射撃精度も、そして耐久性も不十分なのだ。
T-62の主砲であるU-5TS滑腔砲は最大18度上向き、砲口初速秒速約1700mで弾を射出する。T-54/55のD-10Tよりは遠くまで弾を飛ばせるものの、間接射撃での精度はD-10Tと似たりよったりだ。同様に、摩耗に対する抵抗力もD-10Tとたいして変わらない。
映像に戻ろう。このT-62の乗員たちは、戦車の最大射程内には収まるものの、高い精度で命中させられる射程をはるかに超えたところにあるものに向けて砲撃している可能性が高い。
彼らはウクライナ兵に向けて撃つのを楽しんでいるようだ。映像から主砲の俯仰角を測るのは難しく、また彼らが砲兵として戦っているのかも判断しづらい。だが、このロシア兵たちが、実際は誰もいないところに弾を撃ち込んでいるということは十分ありえる。
(forbes.com 原文)