ただ、新たに取り付けられた1PN96MT-02暗視装置は、「より新しい」とは言っても最新式とはほど遠い。これもまた、1970年代にさかのぼる代物だ。砲手は直接照準モードで最大約3.2km先の目標を正確に捉えることができるが、この距離は完全デジタル式であるソスナUの同モードの有効視認距離に比べると3分の2ほどにとどまる。
T-62の砲手が弾をもっと遠くに飛ばしたければ、射角を上げて曲射弾道で撃つという方法がある。実際、旧ソ連の戦車メーカーはそうできるように戦車を設計していて、ソ連軍の教義ではどういう場合にそうすべきか指南してもいた。もっとも、戦車が優れた榴弾砲になるのかといえば、そういうわけではない。
T-62の一世代前にあたり、同様にウクライナでの前線向けに復活している1950年代製の古いT-54/55戦車を例に考えてみよう。
T-54/55の主砲である56口径D-10T戦車砲の砲口初速は秒速およそ1000m。一般的なマウントに据え付けた場合、俯仰角は最大で18度だ。これは榴弾砲に比べるとかなり低い。たとえば、旧ソ連の2S1自走榴弾砲の俯仰角は最大70度となっている。
俯仰角が低いために、D-10Tの射程は当然制約されることになる。視認距離を超える目標は間接射撃するしかない。戦車では俯仰角に加えて、砲弾に関しても制約がある。近代式戦車の砲弾の例に漏れず、D-10Tの砲弾も、弾頭と装薬があらかじめ一体化した「固定型」となっている。そのため、戦車隊員は砲兵隊員と違って、薬嚢を追加して射程を延ばすことはできない。
D-10TはTSh2-22砲手用照準器とセットで運用される。この照準器のレチクル(焦点鏡)のレンジは、最も遠くまで飛ぶ榴弾の場合でせいぜい6kmほどにとどまる。