外国による制裁、とくにフランスによるソスナU砲手用照準器用の光学機器の禁輸を受けて、ロシアの2つの戦車工場は当時、新しいT-72B3、T-80BVM、T-90Mを月に合計で20〜30両しか生産できていなかった。このペースでは前線での損失を補うにはまったく不十分だった。
ロシア国防省はやむを得ず、広大な保管庫から冷戦時代の戦車を引っ張り出すことになった。ほかにすべがなかったとしても、衝撃的な事態である。
ロシアは、1960年代に開発され、多くは1980年代に大幅に改良されている古いT-62戦車を、続々と現役に復帰させ始めた。それから1年がたった今、ウクライナが反転攻勢を進めている南部ザポリージャ州で、戦闘に参加しているT-62の内部の様子を写した珍しい動画がネット上に投稿された。
T-62の回転式砲塔の中で撮影されたこの動画から、軍事アナリストたちがかねて示してきた見方が裏づけられたようだ。老朽化したT-62は主に、戦車そのものとしてではなく、粗雑な大砲として用いられているのではないか、というものだ。おそらく、榴弾砲の深刻な損耗を補う窮余の策と考えられる。
View from inside a Russian T-62M Obr.2022 based on the white thermal screen for the 1PN96MT-02 you can see next to the gunners left arm(thanks to @BuschModelar for spotting this). Engaging Ukrainian targets, you don’t see what they’re firing at but they get 5 rounds down range… pic.twitter.com/KFheKn5WPo
— AFV Recognition (@AFVRec_) July 30, 2023
「もっと速く再装填しろ!」。映像では、笑い声混じりに砲手が声を張り上げる。装填手は、老朽化した115mm滑腔砲の砲尾から、撃ち殻薬莢を取り除くのに手こずっているようだ。乗員4名、重量約40トンのT-62は、旧ソ連最後の手動装填式戦車である。以後のソ連製戦車は自動装填が導入され、乗員は3名に減った。
T-62は数回弾を撃ち、興奮した乗員が「くそウクライナ兵め」と叫ぶのも聞こえる。ただ、乗員が実際にウクライナ兵の姿を目にしているのかは定かではない。
T-62は、砲撃と砲撃の間も動いておらず、半可動式のトーチカや砲座のように機能していると見受けられる。もしかすると、操縦手もいないのかもしれない。