子育ての「トレードオフ」
──著書では、育児スタイルの選択には、実は国や伝統文化の違いよりも、経済格差や再分配、教育のリターンによる影響が大きいと明らかにされています。また、米国や中国といった格差が拡大する社会では、寛容な育児スタイルから、ヘリコプター・ペアレントと呼ばれる過干渉な親も増えるという研究結果がありました。経済学でいうトレードオフの力が働いていると考えている。ある国では、子どものするあらゆることに干渉し、習い事や課外活動や塾に通わせる。そうすることにより、将来の安定が得られるリターンが大きいからだ。達成への意欲とモチベーションも生み出すが、一方で創造性を犠牲にする。
私たちは学校制度にも着目した。教師が子どもに一方的にものを教え、同じことを再生産できるようにする「縦型教育」と、他方、教師が事前に教えないことに子どもたちがそれまでに学んできたことを使って取り組む、よりプロジェクト指向のアプローチもある。
どちらも貴重なアセットだと思うが、社会が異なれば異なるものになるだろう。スウェーデンは住んでみると分かるが特に勤勉な社会ではなく、非常に革新性が重視される。成功企業もいくつか生まれており、あの規模の国にとっては確かに取引(トレード)だろう。
──日本については、(フランスとともに)経済と学校制度というふたつの要素が反対方向のインセンティブを形成する国として紹介されていました。
欧米人のなかには、日本と中国について同じような子育てスタイルだと思う人も多いが、それは違った。中国の親は「勤勉さ」により価値を置き、日本の親は「独立」により価値を置いていた。私たちはこれが、日本が米国や中国と比べて経済的な格差が少ないことが理由だろうと考えた。
しかし同時に、日本の学校制度は過度に試験を重視する制度になっており、この経済状況とアラインしておらず、反対方向のインセンティブを形成していたのが興味深かった。