「親の愛情は、お金には換えられない」という通説があるが、実は、親によって選択される子育てスタイルは、資金、能力、時間といった制約を使ってどのようなリターン(対価)が得られるかという経済的インセンティブに大きく左右されていた──。
2019年にアメリカで出版された『Love, Money & Parenting(邦題:子育ての経済学 愛情・お金・育児スタイル慶應義塾大学出版会)』はふたりの米在住の経済学者によって執筆された、過去と現在、世界さまざまな地域、家庭環境での育児スタイルの違いを経済学という手法で分析した、野心的な著書だ。現在までに世界各国語に翻訳され、とりわけ中国では大きな話題を集めている。
著者のひとりであり、現在はイェール大学国際経済学・開発経済学Tuntex教授のファブリツィオ・ジリボッティに、著作から見えたこと、そして経済格差が世界的に広がるなかでの子育ての課題について聞いた。
──『Love, Money&Parenting』を執筆された背景を教えてください。
私と、共著者のマティアス・ドゥプゲ(米ノースウェスタン大学経済学教授)は長年、さまざまな観点から人的資本の形成過程に関する経済学の研究を行ってきた。人々がいかにスキルや知識を獲得し、それが成功や生産性につながっているのか、というようなことだ。
より視点を広げたとき、単に人々が受けた教育年数だけではなく、ソフトスキル形成への態度とも大きく関係していることがわかった。経済学では、それが幼いころにどのように形成されるかについての研究が増えている。“子育て”のパートだ。
また、私たちの興味はいわゆる文化的側面にも波及した。そのルーツは数百年前の過去にさかのぼる必要があり、経済学とはまったく関係がないと見られがちだが、各国のデータからわかったのは、文化的側面にはゆっくりとした変化と急速な変化があり、その変化は経済発展や経済成長の過程から社会の特性まで密接に関係しているということだ。
そして(少なくともある程度は)親は自分の子どもが将来うまくやれるように、幸せになるように、必ずしも経済的なことだけではなく、自分たちが所属する社会のなかで生き抜けるように努力するものだという観点に立った。
世界の異なる地域の親たちは、同じような希望と願望、つまりわが子が豊かになり、成功する未来を見たいと願っているのは同じだが、その目的を達成するために必要なことが、社会によって異なるのだ。