食&酒

2023.08.15 12:00

白馬の価値を世界へ 長屋英章シェフが考える「フードデザイン」

「カノリーリゾーツ」のメインダイニング「灼麓館」の料理長 長屋英章氏

長屋氏が初めて白馬にきたときに乗った大糸線は、ほとんど乗客もなく、2時間に1本走るだけで、廃線の危機もささやかれてた。近くを見渡すと、新潟のえちごトキめき鉄道では「雪月花」と称して、先輩でもある新潟出身の飯塚隆太シェフが料理をつくるグルメ電車が成功している。そこで長屋氏は、大糸線でもできないかと思い切ってJRに提案した。
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白馬駅の隣の南小谷駅がJR東日本とJR西日本の境界線とあり、なかなかプランが通らなかったが、粘り強くSNSで発信し続けたところ、応援者が現れた。雪月花を白馬まで乗り入れる話も浮上し、来年には美食と美酒に酔いしれる観光電車が実現するという。こうした事例もフードデザインの一つだ。

「電車が走ることで点と点が結ばれ、線になります。さらにそれが面になれば、美食経済圏ができます。白馬村のポテンシャルを広げるためには、富山、金沢、新潟との連携が必須だと、この10カ月で実感しました。県境を越えた官民連携での美食経済圏の構築です。そうすることで、インバウンドも含めたガストロノミーツーリズムが発展していきます」
カノリーリゾーツは、昨年12月にオープンしたばかりだが、年末年始のわずか2カ月間に香港時代の顧客をはじめ、20カ国以上の海外の富裕層がわざわざ白馬村に来て宿泊し、灼麓館で長屋氏の料理に満足して帰っていったという。可能性として感じていたものは確信になりつつある。

もう一つ、長屋氏は大きな目標がある。白馬界隈のレストランに数人いる同窓生(武蔵野調理師専門学校)と協力して調理師学校を作ろうというのだ。調理師学校は東京や大阪の都市圏に集まっているのが現状だ。だが、これからの料理人は自然に直に触れ、地産地消を実感することが強み、あるいは必須になる。だからこそ、分校であれ、ワークショップ形式であれ、白馬に調理師学校を誘致したいという。
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世界を見て、世界で働いてきたからこそ見えてきた、里山の価値。その宝を余すことなく駆使しながら、日本のガストロノミーの価値を高める。長屋氏が目指すフードデザインの発展が楽しみだ。

文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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