幸せにならないと利益が出ない時代に
40年にわたる研究生活で、350件を超える特許を出願し、国際的な賞を多数受賞し、2018年には、数少ないフェローの称号を授与されるなど、順風満帆に見える矢野CEO。アメリカの「ポジティブ心理学」に出会い、現在の「ウェルビーイング」や「幸福学」へと行き着いたのは、自らの挫折を乗り越えた自然な流れだったともいえる。矢野:大事なのは、いかに変化に向き合うか?という覚悟です。ピーター・ドラッカー曰く「未来は予測できない」と、50年以上前から断言していたように、パンデミック、戦争、ChatGPTなど、あらゆる変化が加速する今。そうは言っても今日の業務をまわす事が大切なわけで。職場では、昨日の前提通り今日も回ることが優先され、変化に向き合い、見直すことが疎かになっていないでしょうか。変化に向き合うからこそ「常に成長し続ける事」が何よりも大切となってくるのです。
では、仕事の流れを考えた場合、成長とは、レベル1では業務を覚える。レベル2になると自分で判断を行なう。さらにレベル3では、自らを高め続けるです。このレベル3が人的資本です。つまり、働く→経済を回し利益を生む→社会が幸せになる、という循環が、20世紀にはスタンダードでした。しかし今では、働く→やりがいや充実感という幸せを得る→利益を出す、という循環をメインに考えなければいけないのですが、まだ、以前の考え方から抜けられないのが、問題なのです。
これまで、採算性については、充分に語られてきたのですが、幸せについては、ほとんど語られて来なかった。そこで、この部分が、今まさに求められるように変わった。幸せにならないと利益が出ない時代になったからです。
実は、世界では、およそ4半世紀にわたって「幸せ」について大量の研究がなされています。10年前、世界最大の学会であるIEEEにおいて、データテクノロジーで人を幸せにする論文を発表しましたが、例えば、美味しいものを食べて幸せ感を得る人もいれば、友人と騒いで幸せ感を感じる人もいる。幸せの定義は、人それぞれですが、体内に生じるバイオケミカルな反応は、万国共通。「仕事が上手くいけば幸せだ」「健康なら幸せだ」という因果関係は、実は希薄で、その逆だった。「幸せだから仕事が上手くいく」「幸せだから病気になりにくい」が、正解なのです。
幸せな社員が多いと、会社の利益率が18%上がる!
ここで、注目すべき数字を矢野CEOが発表した。「幸せな営業パーソンの受注率は3割高く、3倍創造的で、幸せな社員が多いと離職率が5割下がり、幸せな社員が多い会社は、利益率が18%高くなる」という驚くデータだ。一般的に考える幸せとは、「南国でゆっくり過ごす」みたいな、ゆるいイメージが漠然とある。しかし、一生懸命働いたからハワイでの休日が楽しいのであって、本当の幸せとは、「前向きに生きる、張りのある状態」だという。では、キーとなる「前向き」になるには、どのようにしたらいいのだろうか?矢野:前向き、後ろ向き、というのは、その人の持っている性格と捉えがちですが、実は、訓練で身につけられる「スキル」なのです。では、どうやったら個人やチーム全体で、スキルを高められるか?結論は、お膳立てが整うのを待つのでなく、自分から動く!どんな優秀な人でも試練や困難は襲ってきます。その時、逃げずに立ち向かう。ストーリー作りは、スキルの問題だから、練習でいくらでも高められるのです。
一方、変えられないのは、BIG5と呼ばれる5つの性格因子。性格とは、いい面と悪い面は、表裏一体にある。例えば、外交的な性格は、1人で問題に立ち向かえない。協調性ある性格は、人に流される。誠実でルールを守る性格は、融通がきかない。安定した性格は、人の気持ちが分からない。