今回のゲストは、AuBの代表取締役を務める鈴木啓太氏。元サッカー選手で、日本代表としても活躍した鈴木氏は、2015年に同社を設立し、経営者としてのセカンドキャリアを歩んでいる。元アスリートで、現在はライフサイエンス領域のビジネスを手掛ける鈴木氏の視点から見た、人的資本経営に迫った。
サッカー選手時代に実感した「コンディショニング」の大切さ
鈴木氏が創業したAuBは、「すべての人を、ベストコンディションに。」をミッションに、フードテック事業やコンディショニングサポート事業などを提供するスタートアップ。アスリートの腸内細菌データをもとに、大学や企業と研究開発を重ね、機能性や品質を科学的に追求した商品・サービスを提供している。
冒頭、人的資本経営に内包されている健康経営やウェルビーイングの観点から、鈴木氏は「そもそも、人間が働き、生きていく上で一番土台となっているものが健康ではないでしょうか。健康であってはじめて、夢ややりたいことにチャレンジできると思うからです」と強調した。
元サッカー選手の鈴木氏だが、10代の頃から漠然とセカンドキャリアについて考えており、選手やチーム、地域が抱える課題を見つけては「引退後、自分に解決できることはないだろうか」と模索していたという。その中で、2008年頃までは約4万8000人だったチームの平均観客動員数が、2013年には約3万5000人にまで減少していることに気付く。理由の1つは、ファンの高齢化に伴って、スタジアムから足が遠のいてしまう人が多いことだった。
「人は体調の変化や加齢とともに、自分の好きなことややりたいことに挑戦しづらくなると気付いたんです。その時、アスリートのコンディショニングを世の中の人たちに伝えられたら、世の中の人たちがもっと元気になるのではと思いました」(鈴木氏)
コンディショニングの重要性に気付いたのは、実体験の影響もある。
「2004年、アテネ五輪の最終予選でドバイに行った時、代表選手23人中18人が下痢になったのですが、僕はならなかったんですよ。僕は腸内細菌のサプリメントを飲んでいたのでお腹を壊さなかったのかなと思ったんですけど。その時、ものすごくコンディショニングって大事だなと実感したんです」(鈴木氏)
しかし2007年、鈴木氏は日本代表としての試合、浦和レッズのメンバーとしてのアジア大会への出場など、年間60超の試合に出場。通常よりオフも短く、疲労が蓄積されたことからコンディションを崩し、長く引きずってしまったという。鈴木氏は「人には限界があるし、体調を崩してしまうと良いパフォーマンスを出せません。自分も悔しいし、活躍すべき人が活躍できない現状は、チームにとってもマイナスでもったいないと思いました」と当時を振り返った。