経営・戦略

2023.07.26 07:00

味の素が国内外のスタートアップと連携する「真の狙い」

Forbes JAPAN編集部

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味の素は、2030年までに「10億人の健康寿命を延伸」と「環境負荷を50%削減」というアウトカムの創出を目指し、共創とイノベーションを推進している。同社の代表執行役副社長であり、Chief Innovation Officer (CIO)として事業モデル変革を手がける白神浩が考える、ウェルビーイングな世界をつくるための構想とは。


──2023年2月に、味の素はグループ全体の志を「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」に進化させた。

味の素グループは、グルタミン酸が“うま味”のもとだという大きな発見、いわばイノベーションから始まった会社だ。1909年の創業以来、新たな社会価値の創造と追求にこだわり続けてきた。どのような未来を描き、その未来に対してどんな価値を提供できるのか。これを考え抜くことこそイノベーションの源泉だ。

──これからの成長領域のひとつに「グリーン」を掲げている。

生活者や社会、地球環境が2030年以降どうなっていくのかを踏まえ、実現したい未来からバックキャストして、味の素グループの4つの成長領域を掲げた。そのなかのひとつがグリーン領域で、その中核となるのがグリーンフード事業だ。

柱となる3つのコンセプトは「おいしさ」「健康・栄養」「サステナブル」だ。具体的には、世界的な人口増加に伴う「タンパク質クライシス」や生物多様性の維持、地政学的リスクなど、食を取り巻くサステナビリティの課題に取り組んでいく。味の素という企業の社会価値を高めるためには、この分野に取り組むことは不可欠であり、アミノサイエンスを通じて食品事業の基盤を伸ばすための成長ドライブにもなると位置づけている。

──グリーンフード事業だけでも、扱う内容は多岐にわたる。スタートアップやベンチャー企業を含めた外部組織とともに手がける必要があるのではないか。

その通りだ。社会変革につながる社会価値の創造は、スタートアップやアカデミア、企業、自治体など、さまざまなパートナーとともに共創することで初めて実現する。当社は食の分野には長けているが、ウェルビーイングな世界をつくるためには、多様性に富んだパートナーとエコシステムをつくることが重要だ。

イノベーションを共創するための柱となるのは、人材や技術などの無形資産だ。味の素は非常に大きくて質の高い無形資産をもっている。一方で、大企業の課題に変革の実行力とスピード感がある。私はCIOとして社内の事業モデル変革や新事業を担当しているが、企業価値の向上や成長のための変革には既存の製品・事業モデル起点から、ライフスタイルや生活者起点の価値提供へと発想を転換することが必要だ。

社外の人たちと組むことで、自社の変革も進む。例えば、若手社員にスタートアップへの出向や協業を経験させ、社会課題の解決と事業を結びつけて考える力やスピード感を体得してもらうことは、イントラプレナー育成にもつながると考えている。
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文=瀬戸久美子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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