管理職の求人・転職が増加 企業に「変革」と「専門スキル」獲得狙う動き

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年功序列、終身雇用を前提とした日本型雇用システムは終焉を迎えつつある。DXやグローバル化などといった環境変化を背景に、企業は近年、事業変革を推進するための中途採用を強化。その傾向は、管理職でも見られるという。

リクルートは7月19日、転職支援サービス「リクルートエージェント」の求人、転職決定者のデータをもとに、管理職の採用動向をまとめた調査結果を発表した。まず、管理職の求人推移については、年々増加傾向にあることが明らかに。2016年度を1とした場合の管理職求人は、2022年度には3.67まで伸長。コロナ禍で新規の求人が落ち込んだ中でも、管理職求人は減少傾向に転じていなかったことが分かった。

同社 HR統括編集長 藤井 薫氏は、「ここ数年で社会の変化や人手不足を背景に、日本企業も変化を迫られている。注力事業に外部人材を起用するだけでなく、新しい事業領域への転換のために、自社にないノウハウを持った外部人材を管理職登用する動きも出ている」と解説した。

続いて、業界別に管理職求人の推移を見ると、2016年度を1とした場合、2022年度に最も伸びているのはIT通信業界の4.71という結果に。それに建設・不動産業界(4.44)が続いた。両業界とも人手不足が深刻で、IT通信業界ではデジタル化が進む中で管理職のニーズが高まり、組織の拡大が急務になっている企業も目立つ。

また、電気・電子・機械業界メーカー(2022年度 3.55)など、比較的日本型雇用の色が濃いと言われる製造分野でも、管理職の募集が伸長。背景には他業界と同様に、新しい事業への参入や、既存事業変革の必要性の高まりがある。2022年度の電気・電子・機械業界メーカーの管理職求人の割合を職種別(上位10職種)に見ても、営業から機械エンジニア(生産技術含む)、生産管理、人事、マーケティングまで、幅広く募集していることが分かる。

同社コンサルタントの中村 圭吾氏は、製造業で進む外部からの管理職採用について、自動車メーカーであれば 「CASE(※)」への対応のために、専門性があるAI人材を採用し、組織を立ち上げる動きがあることや、就職氷河期に新卒採用を絞り込んだことから、現在課長クラスを任せられる40代が足りていない事情があると説明。「プロ経営者採用のようなトップマネジメントの変化がニュースになりがちだが、課長・部長といったレイヤーでも外部採用の動きは確実に広がっている」と述べた。

※ Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略

さらに職種別では、SEの管理職求人の伸び率が6.63と顕著だった。IT通信業界の管理職求人が伸長していることとの相関が示唆されるが、近年、事業会社も含めて、事業成長や組織拡大のために外部から管理職を採用していきたい企業が増えていることも原因として考えられる。

同社コンサルタントの丹野 俊彦氏は、「事業会社で新しいサービスを立ち上げるには新しい組織を作る必要があるが、その際に外部から採用するケースもある。特に、今まで全くITを事業に使ってこなかった企業では、まずは部門の中核になる技術者を採用したいというケースも多い」と解説した。

また、管理職求人は伸びているが、実際に転職した管理職が増えているのかも調べた。すると、管理職での転職は2022年時点で3.13倍になっており、求人の伸び率に対しては低いものの、転職者全体(2.08倍)を1以上上回った。

藤井氏は、「必要な専門スキル、目指す事業目標、期待する成果、想定年収…。こうした要件を明示する管理職の外部登用増加の動きは、暗黙的な内部登用に慣れてきた日本企業の雇用慣行・採用戦略に転換を迫るかもしれない。働く個人にもチャンスは広がっていくだろう」との見解を示した。

岸田政権は今後、「新しい資本主義」の実現に向けて、転職しやすい労働市場改革を推進していく。そうした人材の流動化策は、管理職の転職・求人増加に拍車をかける可能性がある。


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Forbes JAPAN Web編集部

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