経営・戦略

2023.07.28 13:00

元サッカー日本代表が語る社員コンディショニングの鍵|人的資本経営トーク#8

これを受けて上村は、「『活躍すべき人が活躍できないのはもったいない』という視点は、一般企業にも当てはまると思います」とコメント。重ねて堀尾が、「スポーツチームがコンディショニングに重きを置くのは想像に容易い一方で、コンディショニングサポートを真剣に進めている日本企業はどれくらいあるのでしょうか」と、鈴木氏に疑問を投げ掛けた。

すると鈴木氏は、「現状、コンディショニングサポートに真剣に向き合っている企業はほとんどないと思います」と返答。続けて、「企業が採用活動をする中では、候補者の経歴やスキルを知った上で期待できる方を採用しますが、そこには『その人が100%の能力を発揮できたら』という前提条件があると思うのです。つまり、いざ入社して期待値と噛み合わないということは、その人のフィジカルもしくはメンタルのコンディションに乱れが起きているということ。だからこそ、コンディションを整えて社員に100%の力を発揮してもらうという視点も重要だと思うのです」と鋭く切り込んだ。

「健康経営」の時代にこそ問い直したい、健康でいることの目的

「健康経営」というと、まずは従業員が病気になるリスクを下げるといった点がフォーカスされがちだが、その本質は「従業員のパフォーマンス向上」にある。鈴木氏が代表取締役を務めるAuB社内では、従業員が健康経営の本質を理解して、能動的にコンディションを整える文化がある。

鈴木氏は、「腸内細菌の研究をしている会社なので、便の検査をして体の状態や食事を確認したり、研究者が最新の研究結果からおすすめできる食事内容を共有したり。あとはウェアラブルデバイスを用いて、心拍数や睡眠の質を測って開示したりしています。会社側の指示で取り組むのではなく、一人ひとりが『家族のためや仲間のためにも健康でありたい』という思いで、自発的にコンディションを整えている感じです」と紹介した。

ただ、AuBのようにヘルスケア事業を展開している企業でない限り、こうした社内文化の醸成はハードルが高く思える。そのため、上村がどうすれば組織で自発的にコンディションを整える仕組みを作ることができるのかを問うと、鈴木氏は次のように述べた。

「そもそも、『なぜ健康でいなければいけないか』ということを考えていただきたくて。なぜなら、健康は人生の目的を達成するための1つの手段だからです。人は誰しも仕事をする以上、スキルを伸ばして成果を出し、会社の業績に貢献して、給料が上がった方がうれしいですよね。そのためにはハードワークが必要です。

これは、睡眠時間を削るとか長時間働くという意味ではなくて、自分の能力を伸ばしてパフォーマンスを上げるための努力が必要という意味です。ハードワークをするための土台となるのが健康な心身だからこそ、一人ひとりがコンディションを整えることや、会社がそれをサポートすることが大切だと思うのです」(鈴木氏)

これを受けて堀尾が、コンディショニングの知識を身に付ければ、社員個人や組織のパフォーマンスを向上させることが可能になるかを尋ねると、鈴木氏は「もちろんです。コンディショニングというのは、他人と比較するものではなく、自分自身に合うものを見つけていくものだと思います。社員がそれを実現するサポートを会社が行う体制になれば、ベストではないでしょうか」と答えた。
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文=倉本祐美加

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