ところが、現在のところ、この漁獲証明書義務化の対象は国内魚種ではアワビ、ナマコ、シラスウナギの3種、輸入魚種ではイカ、サンマ、サバ、イワシの4種にとどまっている。
EU加盟諸国は10年以上前から全魚種に対して漁獲証明書を義務化しており、米国も主要13種に対して2018年から義務化し、全魚種化に向けた法案も下院を通過している。
そんな世界的状況のなかで、日本の市場がIUU漁業に由来する水産物の温床になっているのが現状であり、水産庁も鋭意努力中と聞くが、早急に対象魚種を増やすのは急務なのである。
海藻の減少はウニの死活問題
今回シンポジウムに参加して見学した、岩手県洋野町の栽培漁業によってつくり育てられたキタムラサキウニは、年間生産約350トンと安定した生産性を保っている。室内で繁殖させた無数のウニの幼生を、戸外に設置されたFRP(繊維強化プラスチック)の水槽で約1年間養殖し、その後自然界に播いて2年間を過ごし、それらが成長してきたところでダイバーが収穫し、海藻を敷き詰めた「うに牧場」に放牧して4年目をここで育てる。ウニの出荷最適ピークは4年から5年目で、6年目からは味が落ちるという。
このウニの増殖溝は50数年前に国費も投入されて建設した海岸沿いの178本の溝からなる。溝は幅約4メートル、深さ約1メートル、全長17.5キロメートルほどの海底の轍のようなもので、そこには沖から海藻が流入し、ウニの餌となる仕組みである。
なので、この場所では海藻の減少はウニの死活問題なのだ。現在、ここでウニの養殖を手がける北三陸ファクトリーでは、国際的に最も認知されている漁業認証であるMSC(Marine Stewardship Council)認証取得に向けて、厳しい評価項目による持続可能性を検証中である。
同社の下苧坪社長は、「我々はこのようにしっかりと持続可能性に配慮した生産を続けている。是非ともサステナビリティが担保された水産物、トレーサビリティ(追跡可能性)が明確な水産物を差別化してほしい。我々の努力が評価されることで次に続く起爆剤となるはずだ」と語る。