「健康に良い、安全で美味しい、美容に良い」もしくは、「割高で、メリットがあるの?」などの意見が一般的であろう。でも実は、オーガニック先進国であるEU諸国では、まったく違うイメージが持たれている。
今回はドイツを拠点に教育事業を手掛けるオーガニックビジネス研究所(以下IOB)代表取締役CEOのレムケなつこ氏に、日本とEUのオーガニック観の違いから考える、これからのオーガニックとの向き合い方について聞いた。
「先日、北海道のオーガニック農場をいくつか視察したのですが、どこの農場もEUに引けを取らない活動をされていて驚きました。『オーガニックが、あたりまえ』な社会を目指している私としては、祖国日本でそのような息吹を感じることができ、とても勇気づけられました」
こう話すレムケ氏が率いるIOBは、日本最大規模のオーガニックコミュニティだ。オーガニック先進国のドイツから学術的な知識を提供し、社会的利益をもたらすことを目的としている。起業家を中心とした約1000人の良質なネットワークを有し、今後は日本でビジネスや研究農場を展開していく。
レムケ氏が北海道で最初に訪問したのは、厚真町にある有機JAS認証を取得した小林農園。太陽の光が差し込む清潔感あふれる鶏舎の横には、広々とした庭があり、鶏たちが自由に歩き回れる環境が整っていた。
「美味しい卵を作ろうとか、オーガニックにこだわろうとはまったく考えていないんですよ。鶏たちがいかに心地よく過ごせる環境を整えるか、ということだけに注力しています」
園主の小林廉氏がこう話す同園では、平たい地面の上で放し飼いする“平飼いスタイル”で運営している。緑が広がる広大な敷地を鶏たちが自由奔放に歩いている様子は、なんともピースフルな光景だ。聞けば一坪あたり7〜8羽の広さを確保しており、一般的な鶏舎の約2倍の広さだという。
「小林さんの農園ではオーガニックではなく慣行(昔ながらの農法)で飼っている鶏もいるんですが、どちらの飼い方でもアニマルウェルフェア(家畜福祉)を徹底されています。EUでも、このレベルで飼育環境は少ないので、世界でもトップレベルと言っても過言ではありません。小林さんは味にはこだわっていないと言いますが、上品で優しい味わいも印象的でした」とレムケ氏。
小林農園には「FORT by THE COAST」という直営ダイナー&直売所が併設されている。出荷できないが十分に食べられる卵を無駄なくいただく“循環”を意識して作られたダイナーだ。
店内では卵をふんだんに使ったオムレツやパスタ、ピザなどが提供され、農業倉庫をベースにした開放的な空間は地元の人々で賑わう。オーガニックをストイックに捉えすぎず、楽しく、美味しく、クリエイティブな形で提供している。