食&酒

2023.03.26

すべては「人を敬う」ことから 三つ星シェフが生む良い循環

レフェルヴェソンス エグゼクティブシェフ 生江史伸(なまえしのぶ)氏

来る3月28日に、2023年度の「アジアのベスト50レストラン」が発表される。実はこのアワードでは、様々な部門賞が用意されている。その中でも、ガストロノミー業界において国際的に認められるべき顕著な貢献を行い、ポジティブな変化を推進しているシェフに贈られる「アイコン賞(Icon Award)」は、特に注目される名誉ある賞だ。

今回、ランキングに先立ってこのアイコン賞に選出されたのが、東京の三つ星フレンチ「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフである。

「人を敬う」心づもり

生江氏は、自然、農家、漁師、猟師との繋がりを優先した倫理的な料理法で、日本独自のテロワールを表現することで世界的に評価されている。また、国連本部で開催された「世界海洋デー」イベントで、海の健康を再生する海藻の重要性のスピーチを行ったり、WWFジャパンと協力して日本における違法、無報告、無規制漁業の削減に取り組んだり、レストランの枠を超えた環境活動にも力を注いでいる。

「僕の活動について、サステナブルやエシカルなどと言われることが多いんですが、それを念頭においているわけではありません。もっとシンプルに『人を敬う』ことや、環境問題であれば『置かれている状況を敬う』『ダメージがあるものをケアしていく』などといった心づもりで行動しているだけなんです」

このような心づもりは、無償の愛を指し示すコンパッション(慈悲)とも言われ、人間の幸福にとって最も大切な心理だと言われている。その心を養うために、自己肯定感や利他の精神を高めたり、瞑想をするなど、さまざまなアプローチが考えられるが、生江氏は、その息吹は日常にあると説く。

「例えば僕たち飲食店は、見ず知らずの人を笑顔でお迎えし、ご飯を提供します。さらに、食事を通して会話を楽しみ、お互いのパーソナリティを認め合って信頼関係を築き、人間関係を良好にしていきます。この営みにおいて敵を作ることはありません。幸せや平和に繋がるという前提に立っています。また、僕たちが生産者と繋がることで、生産者のまわりの自然環境、つまり地球が守られることもあるでしょう」

レフェルヴェソンスでは料理をサーブする際、生産者の方々を紹介するシートを配布したり、プロダクトを紹介するなど、関わっている人々への敬愛を徹底している。

レフェルヴェソンスでは料理をサーブする際、生産者を紹介するシートを配布したり、プロダクトを紹介するなど、関わっている人々への敬愛を徹底している。


確かにSDGsの項目を一つ一つ見ていっても、「人を敬う」ことで解決できる課題が多いことに気づく。サステナビリティやSDGsなどが世の中に浸透するにつれて、何か特別なことをやらなければと思いがちだが、実は難しく考える必要はなく、日常の中のちょっとした優しさで貢献できるのだ。
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