提出資料や補助金申請書類を書き続けた。数カ月が過ぎたころからは毎晩、原因不明の発疹が腕から首までをびっしりと覆った。
限界寸前を味わいながらも、21年9月にシリーズAラウンドで2.4億円の資金調達を完了し、22年3月にはインドに進出した。すると冒頭のウクライナをはじめ、NGOや国際機関、各国の医療機関などから次々に「義足製造システムを提供してもらえないか」との問い合わせが寄せられるようになったという。
そのひとつが、「ジャイプール・フット」で知られる国際NGO、バグワン・マハベール・ビクラング・サハヤタ・サミティだ。テクニカル・ディレクターを務めるプージャ・ムクール博士は「インスタリムのフィリピンでの成功が提携を検討するきっかけになった」としたうえで、こう話す。
「毎年、世界中で100万人以上が足を失っている。障がいは貧困と表裏一体の関係だ。義肢装具は彼らの体の可動性を回復させるだけでなく、経済的自立や社会的包摂への入り口になる」
いま、インスタリムは新たなビジネスモデルを通じて各国の要請に応えようとしている。ひとつは、大規模医療機関やNGO向けの「製造ライセンスモデル」だ。3Dプリンタを含む製造ソリューションを有償提供し、義足製作のDX化を後押しする。ふたつ目は、小規模事業所などを対象に
した「エージェントモデル」だ。設計ソフトをサブスク方式で提供し、3Dプリントは自社のセントラルファクトリーで実施。義足は宅配便で患者に直接届ける。
「障がい者も義足製作者も、皆が協力してデータを採取することでAIの学習が進み、ソリューションの質とビジネスの持続性が高まり、糖尿病や義足の課題解決につながる。モデルを使い分けることで、義足の需要を網羅的にカバーしたい」
幾多の困難を経験しながらも、ビジネスを通じて糖尿病という人類の共通課題に挑む徳島。インスタリムは義足業界のみならず、ものづくりの世界に創造的破壊をもたらそうとしている。
徳島 泰◎大学入学後、ベンチャー企業に入社。25歳で独立しウェブシステムとハードウェア系企業を立ち上げた後、多摩美術大学を経て大手医療機器メーカーの工業デザイナーに。34歳で青年海外協力隊員としてフィリピンへ。帰国後、慶應義塾大学大学院に進学し2017年に修了。最優秀修士論文に送られる相磯賞受賞。18年にインスタリムを創業。