映画「せかいのおきく」プロデューサーに聞く。映画でつくるサーキュラーエコノミーとは

映画『せかいのおきく』企画・プロデューサーの原田満生

映画『せかいのおきく』は、今年4月に公開された日本映画だ。

舞台は、江戸末期。日本は外国から開国を迫られ、激動の時代を迎えていた。

『せかいのおきく』は、この時代に江戸の長屋に生きた人の生活・恋・人生観・世界観などを、コミカルかつ文学的に情緒的に淡く深く描いた映画だ。そして、『せかいのおきく』の根底にあるのが、当時すでに存在した循環の仕組みである。

作中にいきいきと描かれる若者2人の職業は、下肥(人糞)買い。人糞は、世界で古くから肥料として農業に活用されていたが、日本では人糞は下水には流されず衛生的に扱われていたのが特徴だ。

江戸末期、1858年に日米修好通商条約を締結したタウンゼント・ハリス初代米国総領事は、入港後に領事館を構えた静岡県の下田について清潔で気持ちがいいと日記に綴っている。

当時、人口100万人を超え世界最大級の都市だった江戸も同様で、上下水道は整備され人糞は下水に流されず、清潔な状態が維持されていた。良好な衛生状態は、人の健康を保ち、人と社会に大きな循環をもたらす。

この江戸の清潔さと循環に寄与していたのが、作品に登場する若者2人のような下肥買いである。

映画『せかいのおきく』より(c)2023 FANTASIA

2023年6月6日~11日、ドイツ・フランクフルトで第23回日本映画祭「ニッポン・コネクション」が開催された。同映画祭は日本映画の”いま”を伝えるべく、毎年約100本の日本映画を上映しており、今年『せかいのおきく』も上映された。

Circular Economy Hub編集部は、6月9日に「ニッポン・コネクション」で上映された『せかいのおきく』を鑑賞。後日、企画・プロデューサーとして『せかいのおきく』を立ち上げ、美術も手掛けた原田満生氏に話をうかがった。

原田氏は、『せかいのおきく』の監督である阪本順治氏の多くの作品で美術監督を務め、数々の美術賞を受賞している。そのほか、『テルマエ・ロマエ』『日日是好日』『散り椿』など、さまざまな作品に映画美術監督として参加してきた。

『せかいのおきく』は、原田氏が立ち上げたプロジェクト「YOIHI PROJECT」の第1弾作品だ。YOIHI PROJECTは、日本映画製作チームと世界の自然科学系研究者が協力して、さまざまな時代の「良い日」に生きる人々を描き「映画」で伝えていくことを目指している。

6月9日の『せかいのおきく』上映会場は満席だった

原田氏が立ち上げた「YOIHI PROJECT」

まず、YOIHI PROJECTについてうかがった。

「いま、世界には環境問題・バイオエコノミー・サーキュラーエコノミー・自然との共生など、さまざまな課題があります。この課題を映画の中にテーマとして散りばめて、説教じみずにドラマ中心に映画をつくり、観客が自発的に考えるきっかけをつくるのが、YOIHI PROJECTの目的です。

100~150年後に伝えていくことも、同プロジェクトのテーマです。いま、こうした課題を解決できなくても、100~150年後には時代・技術・人も変わっているはずなので、映画人と学者が連携して、長い間伝えていく・持続させていくということを目標に活動しています。

映画人と学者が連携して、いろいろな視点で作品をつくるという、いままでにないようなプロジェクトです」
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文=クリューガー量子

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