2010年代からアメリカで始まった考え方「Farm to Table(“農場から食卓へ”=環境にも配慮した食材を地産地消する、生産者と消費者が近い距離にあるような食のかたち)」はインドでも広がり、良質で安全な食材にこだわったレストランも増えている。そうしたインドにおける「Farm to Table」運動の最前線に立ってきたのが、ムンバイで「Sequel」「noon」の2店舗のレストランを経営するカシミール地方出身の女性シェフ、Vanika Choudhary氏(以下、ヴァニカ氏)だ。
ムンバイの女性シェフ、京都でランチ・ディナーイベント
今回、ヴァニカ氏率いるnoonチームが日本へ初来日し、京都を舞台に2日限りのランチ・ディナーイベントを行った。noonがラブコールを送った相手は、京都cenci。「アジアのベストレストラン2023」32位(2022より11ランクアップ)の、食通が今こぞって訪れるイタリアンだ。インスタのDMから始まったコラボレーション
実はこのコラボレーションは、一通のSNSのメッセージから始まったという。京都とインド、遠く離れた二つの土地をつなぐキーワードは、「発酵」。noonは、インドに伝わる発酵食や土地の食材にフォーカスし、インドの食を再定義するファインダイニングだ。ムンバイの店舗では約50種類もの自家製発酵食品を使い、伝統的な調理法に根差しつつ、オリジナリティに富んだ進歩的な料理を提供している。noonのコンセプトの源は、ヴァニカ氏の幼少期に遡る。noonの構想を考えていた矢先に妊娠がわかったヴァニカ氏。そのとき猛烈に食べたくなったのが、幼少期に食べていたアチャール(漬物)やカンジ(黒ニンジンで造った発酵飲料)、グッチ・プラオ(編み笠たけ)といった懐かしい料理だった。それを機に自分のルーツやインドの食文化を見つめなおし、インドに古代から伝わる発酵技術や保存食に向き合うようになる。発酵を駆使するニュー・ノルディック(新・北欧料理)を学ぶなかで、旨味を引き出す麹が鍵を握ると感じたヴァニカ氏は、麹による発酵を学ぶために日本に着目。SNSでリサーチしていたところに、目にとまったのがcenciだ。