一皿一皿のパーツが多いなかで、比較的シンプルな美味しさを放っていたのが、「椎茸 豆乳 木の芽」。椎茸にはcenciで事前に作ったトマト塩麹と福岡県糸島市のミツル醤油の「オレンジ醤油」を合わせたソースを塗り、炭火でじっくり炙った。ヨーグルトソースや木の芽のペーストが爽やかな味わいだ。このオレンジ醤油は坂本氏も注目しているもので、発酵の初期段階で発酵を止めるため、旨味はありつつも従来の醤油よりも香りが華やかに出る。
デザート2品を含めた12皿のコースは、未知の食材のオンパレードで、大いに知的好奇心を刺激された。発酵を駆使した付け合わせやソースにより味変できるのも楽しい。パーツが多く複雑な構成だが、すべての要素がまとまって、最終的にはきちんと「誰が食べてもわかりやすいおいしさ」につながっていることに驚いた。
今後にますます期待がかかるインドの食とワイン
2023年にはついに中国を抜き人口世界一となったインド。その多様な食文化を活かしたインドのガストロノミーが注目されるのは必然とも思えるが、「消費者や観光客の視点から見ると、インドの料理や文化はまだ誤解され、その魅力は十分に知られていません」とヴァニカ氏。ダイニングシーンを盛り上げるには、やはり観光が重要な役割を担うが、インドの観光の中心はラージャスターンやケララ州などで、ムンバイはただビジネスで通過するだけの金融都市と誤解されているという。「実際、ムンバイを訪れると多くの発見がある。ムンバイがガストロノミーの目的地や観光地として成長し続けるにつれて、認識も変わっていくと思います」と期待している。また、今回のペアリングワインでは日本やイタリア、フランスの自然派ワインが供されたが、インドではワインも造られている。太陽のラベルのSULA Vineyardsが有名で、シュナンブラン、シラー、ジンファンデルなどはスパイシーな食事との相性も抜群だ。筆者の友人もジンファンデルを愛飲している。
だが、ヴァニカ氏いわく「インドワインはまだまだこれから」だそう。そもそもインドではまだワインを飲む人が少なく、noonでも、イタリアやフランスワインの小規模なビオ生産者のワインを供しているほか、お茶やカクテルなどのノンアルコールのものも多く取り揃えているという。
ノンアルコールペアリングでは、noonが持参した3種のお茶に加え、cenciセレクトのティーペアリングが供された