2皿目、インドから持参した唐辛子のきいたパパダムのお皿「賀茂茄子 トマト 紫蘇 パパダム」。賀茂茄子は炙る際に、カットしたにんにくを箸で開けた穴に詰め、転がしながらゆっくり炭で火を入れた後、手もみで潰すという手のかけよう。セミドライトマトや、マフア(インドではこの花を発酵させてお酒を造る)を使った紫蘇オイルにより味わいが多層的に広がる。ペアリングは、スパイスや甘みの強いドライトマトにもマッチするという日本ワイン、ボーペイサージュ「a hum 2018」。醸しのオレンジワインであるため、渋みが出過ぎないようあえて高めの14度で供された。
きのこと麹のソース、紫蘇の実の塩──
3皿目、「グリーンアスパラガス 蕎麦 タイム 烏賊」。そば粉や小麦粉等で造った生地の下には、香り高いきのこを乾燥させ麹と合わせた「こうたけ麹」のソース。上に載っているアオリイカの表面にはcenci自家製の鮎の魚醤を塗り、炭火であぶっている。トッピングは乳酸発酵させたブルーベリーを乾燥させて塩と合わせたブルーベリーソルト。クリスピーな生地とイカの弾力、旨味のコントラストが強烈な一皿だ。ちなみに自家製アユの魚醤は、なんと酒粕で蓋をしているそうだが、これは坂本氏の実家の「手前味噌」が酒粕で蓋をしていたことから着想を得たという。4皿目、チーズのグラタンのような「茄子 ラクレット ラベンダー クミン」のお皿は、ヴァニカ氏が「cenciがいかに自由なレストランであるかを示している」と感嘆する一皿。「国境を越えて食材がシームレスに組み合わさっているのを見ると、信じられないような気分」と話す。
岡山の吉田牧場のラクレットの上には、紫蘇の実の塩(紫蘇の実を石臼でひき、岩塩とラベンダー、黄色い唐辛子と混ぜた塩)やブラックソルト、イムリ(タマリンド)をトッピング。この紫蘇の実の塩はインド北部では冬にはロティ(インドのパン)と一緒に食べられるが、今回は日本仕様でさっぱりと、サワードウに仕上げた。ちなみにこのサワードウの酵母は、cenciの元サービスマンの遠藤真人が立ち上げた北海道・上歌ヴィンヤードのブドウの搾りかすを酵母にしたもの。食材の一つ一つにストーリーが込められている。
合わせたワインには、思わずうならされた。シチリアの酒精強化ワイン・マルサラの生産者が造る瓶内二次発酵のスパークリングワインで、グリッロという土着品種を100%使用した珍しいワインだ。ワイン自体からもスパイスやキャラメルの香りが感じられ、「クミンの香りと非常に相性がいいワインです。料理にもう一つ、スパイスを足すイメージ」という説明に膝を打った。