ウクライナ政府を支援する諸国は、約800両の歩兵戦闘車を供与すると約束している。つまり理屈の上では、ウクライナ軍が利用できる歩兵戦闘車は、開戦時と比較して200両増える計算となる。
だが、2022年2月にロシアがウクライナに武力侵攻し、本格的な戦闘が始まって以来、ウクライナ軍は新たな旅団を数十個単位で立ち上げている。同時にウクライナ国防省は、既存の旅団を増強し、軽装備の戦闘車を重装備に置き換える動きも進めている。
こうした事情から、ウクライナ軍では歩兵戦闘車が大幅な不足状態にある。しかも今回のような戦争では、歩兵隊を輸送・防御し、火力支援を供与する歩兵戦闘車は、戦車を上回る重要な役割を担っているはずだ。
一方で、ウクライナには旧ソ連で開発されたディーゼル駆動のMT-LB(汎用軽装甲牽引車)が数多く存在する。となれば、ウクライナの軍事産業が、8人乗りタイプのMT-LBを改造し、歩兵戦闘車に仕立て上げたのも当然と言えるだろう。
先にネット上で拡散した動画では、新たに装甲を増強し、重機関砲を搭載した改造版MT-LBを6両見ることができる。
ただし、この改造版MT-LBはあくまで急場しのぎであり、差し迫った問題に対する不完全な解決策であることは間違いない。米国の「M2ブラッドレー」やドイツの「マルダー」、スウェーデンの「CV90」をはじめとする最も高性能な歩兵戦闘車の多くは30トン級に属する。装甲を追加しても重量が13トンしかないMT-LBは軽量で、攻撃に対する防御力も心許ない。