ビジネス

2023.07.06 12:30

「事件はレストランで起きる」 夫は名物校長で著名フーディー|イノベーターの妻たち

石井節子

「エチェバリ事件」、「肉解凍し忘れ事件」?

──喧嘩はされますか? された後はどう収集を?

喧嘩でもないのですが、以前、スペイン北部バスク地方の、「世界のベストレストラン50」の3位にもランクインした名店「アサドール・エチェバリ」に行った時に、彼をめずらしく怒らせたことがあります。



実は私が、あまりにもワインとご飯が美味しすぎて、感激のあまり食べながら泣いてしまったんです。そうしたら彼が「ほんとに泣いたりするのやめて、俺が泣かせてるみたいじゃない」と言って。まあ、周囲にはわからない日本語で会話しているし、なんだか女の子が泣いてるぞ、みたいなただならぬ雰囲気になりますよね、男性としてはそれは、ある程度いたたまれない(笑)。

でも、それまでは、とにかく何をしても機嫌がよく優しい人だと思っていたので、、恥をかかされることは嫌いなんだ、と理解した経験でした。

もうひとつ、2人の歴史の中で強烈な輝きを放っている(笑)「肉解凍し忘れ事件」があります。

結婚2年目ぐらいのとき、ホームパーティーをすることになったんです。ところが私に急な用事が入り、下準備がまったくできなくなってしまって。彼に一切合切を頼むことになりました。彼は本当に優しいので、食材を揃えるところからいろいろな準備、掃除まで、なんでもかんでもやってくれたんです。

でも、1つだけ彼が忘れてたことがあって。私はローストビーフを焼くつもりだったんですが、お肉を冷凍庫に入れたまま、解凍してくれていなかったんです。なので、思わず「なんでお肉が解凍されていないの!」みたいにすごく責めたんですよね。

そうしたら、その時も本当に珍しく「他は全部やっているのに、 たった1つ忘れたことをなぜそんなに責めるんだ」と怒ったんです。

私は彼がとにかく優しいから何を言っても許される、という具合に調子に乗っていたと思うんですよね。

互いの「トリセツ」が3年で完成

──とくにその「肉解凍し忘れ事件」からお2人の関係は少し変わりましたか?

ものすごく変わりました。さすがの彼でも、感謝の気持ちを伝え忘れると怒ってしまうんだな、ということがこの事件でわかりましたね。

ほかにも細かい経験を重ねて、結婚3年目ぐらいで、お互いの取り扱い方がわかってきました。いわば互いの「トリセツ」が完成したんです。「彼が嫌なこと」「私が嫌なことは」お互いしない、といった不文律ができあがりました。

よく「ゴールイン」といいますが、結婚のテープを切るまでが短距離走だったのがかえってよかったのかな、と思います。「ちゃんとわかり合う前に結婚した」前提があるので、「一緒に住んでみたら全然違った」がむしろ当然、それが了解事項として日常のバックグラウンドに流れていましたから。


夫は「コミュニケーションの権化」──?

最近では喧嘩をしないのは、「トリセツ」の効力のほかに、実は彼のコミュニケーション能力の絶対的な高さにもよると思います。

たとえば、彼は本当に褒め上手で、感謝上手。本当に私がちょっとだけ何かしただけでも、「ありがとう」が出てきます。

たとえば私が料理で失敗したなと思っても、美味しい美味しい、と言って食べる。レシピ通りに作っただけだよ、といっても、「あっちゃん(彩氏のこと)が作ったからこんなに美味しいんだよ」と上げに上げてくれますし、たとえ味が薄くても、「あ、これ健康に良さそう」とか、とにかくマイナスのことを全然言わないんです。すごい才能です、あれは(笑)。

ほかにもたとえば、財布を落としたりして私がすごく落ち込んでると、「たぶんそのことで、交通事故に合わなくて済んだとか、引き換えにいいことが起きているんだよ、気づかないだけで」みたいに言います。一緒に住んでいる私にも思考変容があって、だんだんポジティブシンキングになってきました。きっと学校でも、生徒たちや先生方にそういうコミュニケーションをしているんじゃないでしょうか。
次ページ > 書籍の「余白」が重要なビジネスノート

取材・文=石井節子 写真=曽川拓哉

タグ:

連載

イノベーターの妻たち

ForbesBrandVoice

人気記事