本連載は、そんな人物たちの仕事をもっとも身近で目撃してきたパートナーたちの証言集である。時代の卓越したインフルエンサーでもあるイノベーターたちは、ベースキャンプである「家庭」で日々、いかに「イノベーションの種」を醸成しているのか。
第2回は、日本マイクロソフト元業務執行役員で、「プレゼンの神様」とも称される澤円氏の妻で、造形作家でもある澤奈緒氏に話を聞いた。
澤円氏は、日本マイクロソフト時代、その卓越したプレゼンテーションの技術で話題の人となり、日本人エンジニアとして初めてビル・ゲイツから「Chairman’s Award」を受賞した名物マネージャーとして知られる。
2020年夏に独立し、現在はスタートアップ複数社の顧問を務めながら、グローバル人材の育成に力を注ぐ。また、Voicyパーソナリティや武蔵野大学や琉球大学の教員の顔も持つ、類まれなるマルチタレントである。
妻、奈緒氏は、アートな仮装で心を解放することを目指すプロジェクト、「KESHIN」でも知られる注目の造形作家だ。最近ではウレタンフォームを使ったワークショップも各地で行っている。
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出会い、そして「超ビジネスライク」なプロポーズ
私は美大(武蔵野美術大学)を卒業後、教育コンサルやミニシアターの配給会社で勤務した後、制作活動に専念するため2006年、登録したクリエーター派遣の会社からの紹介で広告代理店の子会社に勤務しました。同社は当時、マイクロソフトからBtoBマーケティングのコンサルティングを請け負っていて、私も出向という形でマイクロソフトに常駐することになりました。
とはいえ、夫となる彼と直接の接点があったわけではないのです。もともと、広告代理店の子会社の先輩たちから「MSのキリスト(澤円氏は、長髪やその風貌から「キリスト」のニックネームを持つ)」の噂は聞いていましたが、そういう「派手な人」にはぜんぜん興味はなかった。前の席に座っていた人が彼とつながっていた関係で、社内ですれ違うくらいのことはあったんですが、「ふうん、あれがキリストか」くらいの感じでした。
澤奈緒氏
ただ、私自身が当時はかなり派手な服装をしていて、マイクロソフトのなかで浮いていたらしいのです、自分ではまったく気づかなかったのですが(笑)。それで、彼のほうでも同じ「変なやつ」という匂いを感じていたようです。私とちょっと会話をしたときに、「この人と結婚したらなんだか面白いことになりそうだ」とすでに感じていたと、後から聞きました。
プロポーズは、まあ、それはそれはビジネスライクでしたね。
よく彼が行くスポーツバーみたいなところでご飯を食べていたときに、「いまから2つ、提案をするよ」と言われ、続けて「長期的な提案と短期的な提案どっちから聞きたい?」と尋ねるので、じゃあとりあえず短期的なほうからどうぞ、と答えると、「熱海に旅行に行かないか」って。
「あぁ、別にいいよ」と返事して、「もう1つ、長期的なほうは何?」と聞いたら、それが「結婚しよう」でした。