無人ならではの柔軟性
せりか:ISSでも多くの宇宙実験が行われていますし、将来構築される予定の商業宇宙ステーションでも宇宙実験は行われるのではないかと思います。こうした有人の施設とELS-Rの違いはどのようなところにありますか。武藤さん:私たちが開発しているELS-Rは無人なので、ISSで宇宙飛行士が行っているような複雑な操作を伴う実験はできないかもしれません。ただ、有人の施設では滞在している宇宙飛行士に危険が及んではいけないので、搭載する実験機器の安全審査がとても厳しくなっています。この安全審査には時間がかかるので、構想から実験までのリードタイムが長くなってしまい、高頻度に実験ができないという課題もあります。
一方、私たちのELS-Rは人がいない環境なので、安全審査も比較的易しくできる部分もあり、有人の施設には持ち込むことの難しい材料を使って実験できるといったメリットもあると考えています。
さらに、2023年4月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)さまと、JAXA宇宙イノベーションパートナーシップの枠組みの下で「地球低軌道拠点からの高頻度再突入・回収事業」に関する共創活動を始めました。
これまではISSで実施した実験のサンプルは、宇宙飛行士が帰還する宇宙船の空いているスペースに載せてもらうなど、限られたタイミングでしか、地上に持ち帰ることができませんでした。
JAXAは、宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」がISSでのミッションを終えて、大気圏に再突入する機会を利用して、ISSの物資を⼩型回収カプセルで地上に持ち帰る技術を実証しましたが、まだ高頻度な実用には至っていません。JAXAとの共創事業では、私たちの技術で地球低軌道の拠点からサンプルを回収する頻度を上げることを目指し、検討を進めています。
せりか:燃え尽きずに大気圏に再突入して、地球低軌道から帰還する技術は開発するのが難しいと聞いたことがあります。
武藤さん:そうですね。今のところ大気圏への再突入技術を持っている国は限られていますし、民間ではSpaceXしか実現していません。SpaceXの場合は大気圏へ再突入させるのは有人宇宙船ですが、私たちが開発しているような小型の衛星を、狙った場所に着水させられるように制御して帰還させた民間企業はまだ存在しません。
海外にも、衛星を使った宇宙実験プラットフォームを開発しているスタートアップがあります。衛星で実験や実証を行うというサービスにニーズがある証拠ですので、私たちも早期の事業化を目指して開発していきます。