キャリア

2023.07.01 12:00

資本主義の「アンチテーゼ」、立川吉笑の落語家という生き方

——資本主義のカウンターカルチャーとしての落語という考えはとても興味深いと思いました。

自分自身も、資本主義的な考え方に対してなんとなく違和感を感じています。だから一発当てて大儲けしたいという感じではないけれど、結局資本主義社会に生きているので、そこから完全には逃れられません。本当は完全に資本主義のカウンターポジションをとることができたら一番いいとは思うんですが、お金は必要だし、人間なのでより多くを求める気持ちもある。日々、自問自答をしています。


古典落語は、そもそも資本主義の価値観とちょっと離れたところ、一極集中じゃなくて多様性を認めるという世界観があると思います。やっぱり拡大や成長を追求するいまの資本主義はどう考えても無理が来ていると感じている人も少なくないと思います。古典落語をいまも聞く人がいるのも、いまの資本主義とは違う世界観がどこかでいいなと思う人がいるからだと思います。


自分のお客さんは平日午後6時頃まで働いて、そこからわざわざ落語会へ楽しみに来てくださる方がほとんどです。この時代に「なんの生産性もない」のんびりした落語家という仕事に就いているのだから、まずは自分が利益追求型でない、落語の登場人物たちみたいな了見でいたいなと思います。そして、会に来てくださる方々に、少しだけ資本主義から自由になる時間を提供できたらいいなと思うんです。


立川吉笑◎落語家。1984年生まれ。京都市出身。2010年11月、立川談笑に入門。1年5ヵ月で二ツ目にスピード昇進した。古典落語的世界観の中で、現代的なコントやギャグ漫画に近い笑いの感覚を表現する『擬古典<ギコテン>』という手法が得意。気鋭の若手学者他をゲストに迎えた『吉笑ゼミ。』も主宰する。メディアへの出演も豊富。2015年には初めての単行本『現在落語論』(毎日新聞出版)を刊行した。2022年に若手落語家の登竜門といわれる「NHK新人落語大賞」で優勝。

成相通子=文、越川麻希=撮影

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