累計90万部超のベストセラー小説『三千円の使いかた』(中央公論新社)をはじめ、経済事情から人生をとらえ直す作品を多く上梓している原田ひ香。そんな彼女が対談相手として指名したのは、YouTubeで淡々と「働かない男の日常」を配信するNATTY。両者に共通するのは、自身の明確な意志で今の生活を選択していることだ。
主体的に生きるふたりが、お金とのかかわり方を語り合う──。
原田ひ香(以下、原田):日ごろから小説の題材を探すなかでYouTubeを観ることも多く、NATTYさんの動画も拝聴しています。かつてはテスラに勤務していたそうですが、「働かないミニマリスト」になられたのはなぜですか。
NATTY:大手商社やテスラの営業を経験しましたが、当時の僕は仕事に集中し過ぎていたんです。退社後、ゆっくりと自分の気持ちを整理するなかで、「もっと家族(両親)や友人など、大切な人たちとの時間を優先しよう」と決心し、「36歳独身」「生活費月9万円」という現在の生活スタイルを選びました。
原田:立ち止まって考える時間は本当に大切ですよね。私は小説家になる前はシナリオライターをしていましたが、とにかく忙しかった。あるとき久しぶりに休みを確保でき、ゆっくりと大好きな小説を読む機会を得て、ようやく「自分が本当に書きたいのは小説だ」と気づけました。
NATTY:テスラ退社後、スターバックスでアルバイトしていた時期もありますが、現在の収入源は民間企業を対象としたコンサル業務がベースです。僕が言う「働かない」の定義は、「現代の社会構造に沿って労働しないこと」。利益を出せるならば、必ずしもフルタイムで働く必要はありません。事実、現在の僕の労働時間は1日1時間程度です。とはいえ、散歩や家事をしながら事業計画について考えることも多いので、ある意味一日中仕事しているとも言えますが、ストレスを感じることは一切ありません。かなり自由に生きているので、原田先生の『三千円の使いかた』の登場人物で言えば、「安生(アルバイトをしながら世界中を放浪する男性)」に近いかもしれません。
原田:1日1時間労働は、ちょうど私も検討しているところです。ありがたいことに3年先まで複数の連載が決まっている状況なので難しいかもしれませんが、「1日1時間の執筆で新聞小説を書き上げました!」と言えたら、ちょっと面白いかなと思いまして。