——経費がゼロでも時間がかかることを継続して続けるのは容易ではありませんが、2019年に始めて、いまはどのようになっていますか。伝統芸能の業界で、新しいテクノロジーや手法を使うにあたって、気をつけていることはありますか?
2019年は、クラウドファンディングで地方公演ツアーをやるということが、演芸界ではまだまだなかった時代なので、注目を集めました。全国5カ所で新作ネタを披露するツアーができました。その翌年にはツアー規模を5倍ほどに拡大し、全国20ヶ所以上での開催しました。そのときは600万円ぐらい支援が集まりました。
いかにマネタイズの方法を増やすかということを考える反面、「稼いでいる」という誤解はもたれないように努めました。徹底的に収支を発表する。「これをやるためにこれが必要なので支援をお願いします」と募集して、結果こんなことができましたときちんと報告する。またリターンも支援した金額以上のものでお返ししようと心がけました。演芸界では馴染みのなかったクラウドファンディングに取り組む以上、しっかり説明してうさんくさくないことをアピールしました。
思えば演芸文脈のお客さんは演者を応援しようと強く想ってくださる方も多く、すごく助けてもらえました。特にソーゾーシーは先鋭的なことをやっているユニットなので、お客さんも先進的な取り組みが好きだったり、若い人も多いので、クラウドファンディングのような新しい手法もスムーズに受け入れてもらえたのだと思います。
ソーゾーシーで各地を回らせてもらって、純粋に見てもらえる人口が増えたのは嬉しい変化です。基本的にお金の制約があるから東京でしかやってなかったんですが、ほかの演者もお金の制約がなければ東京だけでやる必要はないし、全国各地でやりたい気持ちはあると思います。
演芸は、小規模な活動であるからこそ、大金を稼ぐことを目的とするような資本主義的な発想に対して、アウトサイダーっぽいポジションだったり、資本主義に対するカウンターカルチャーのようなことができるんだと思います。また、演芸のお客さんは、どうしてもお金を稼ぐことに対してネガティブな印象が強いと思います。なので、リターンも丁寧かつ量も圧倒的にやります。テクノロジーを使うときも「圧倒的に手触りを残す」ということをすごく意識しています。
例えば、お礼メールを一斉送信でお返しするんじゃなくて、一人ひとりのアドレスに直接返事を書くとか。もっとデジタルで便利な方法があるなかで、あえてアナログに手間暇かけてやるんです。Twitterでも、リアルタイムで支援への感謝をつぶやいたり。ちゃんと機械の向こう側に血が通った人間が動いていること、熱量を可視化するというのをこだわっています。