キャリア

2023.07.01 12:00

資本主義の「アンチテーゼ」、立川吉笑の落語家という生き方

立川吉笑(越川麻希=撮影)

——そのうえで、クラウドファンディングという新しい収益モデルを始めたのはなぜでしょうか。
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落語は予算が少なくともできる演芸です。演劇のような舞台セットもいらないし、基本的に座布団とマイクがあればいける。たくさんのスタッフもいらない。経費が比較的かからないんです。ただ、一方で音楽のように一度に、例えば1万人といった大人数に届けるのは難しい。「出力の弱い」芸能です。



僕のような若手の落語家だと、最大で数百人が上限で、100人でも大きいぐらい。それこそ蕎麦屋の二階や銭湯、飲食店など20人や30人での仕事もたくさんあるような小さい芸能なんです。その小さい範囲の中で、例えば2000円の入場料で30人なら6万円の売り上げ、会場代や経費を除いて、2万円くらいの収益になる。そんな仕事が週に2日あれば、なんとかアルバイトしなくても食っていけるという感じです。


でも、そういう形だと、使える予算が限られてしまうんです。落語ではよっぽど上の師匠クラスでもチケット代は3500円とか4000円が基本的には上限です。3000円で100人呼べたら30万円の売り上げですが、大きい会場では会場費もそれなりにかかるし、スタッフの人件費も多くかかります。つまりチケット収入だけだとどうしても使える予算が限られてしまう。そこで、チケット売り上げ以外で収入源をつくろうと思ったわけです。


チケット収入以外の収入源をつくっておくと、その予算でビジュアルワークを豪華にしたり、地方公演に行けたり、大人数での公演ができたり、裏側の記録映像を作ってみたりと可能性が広がります。チケット収入以外の収益を確保して、自分たちの取り分にするのでなく、それを全部、お客さんに還元することができないか。そう考えてやり始めました。


——具体的にどのようにクラウドファンディングを進めたのでしょうか。
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2017年ごろから「ソーゾーシー」という4人の落語家と浪曲師で新作話芸ユニットをやっています。

基本的には落語や浪曲といった演芸というのは局地的な芸能で、東京中心の公演が多いです。地方での演芸会もありますが、呼ばれるのは笑点に出ている人のような売れっ子の師匠方ばかりです。そして、たまに自分が呼ばれても、やっぱり失敗したくない機会だからとやりなれた手堅いネタをやってしまいがちです。


もちろんそれが悪いわけではありませんが、ソーゾーシーの公演は、毎回、その回のために作ったネタを初披露するっていうことを特徴にしています。新作を初めて披露して、その瞬間に、お客さんの反応でようやくこのネタが完成するという独特の緊張感があります。お客さんもどんな噺が聴けるのか普段の会より緊張しているし、その分盛り上がりもすごい。でもそういうスリリングな会はどうしても、普段から応援してくれてる方に向けてやることになるので、東京中心になりがちです。


こんな独特の緊張感や盛り上がりを秘めたソーゾーシーを各地にお届けできればいいなと考えていました。でも、さっき言ったように収入の上限がほぼ決っている。チケット代金3000円として収容人数100人ほどで考えると、4人分の新幹線の移動費や宿泊費すら捻出できません。でも、その宿泊費と交通費を別に担保できたら、経費は都内での公演と変わらないことに気づきました。そこで、交通費と宿泊費を捻出するためにクラウドファンディングで支援を募っています。それから形は変わっていますが、毎年ツアーをやっています。
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成相通子=文、越川麻希=撮影

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