失敗事例3:現場の巻き込みに失敗(建設業C社)
2024年4月から「時間外労働の上限規制」が建設業界にも適用されます。建設業界は全体的に平均年齢が高く、新規人材採用も難しいことから、働き方含めた業務全般の見直しは本当に待ったなしの状況です。建設業C社も規制に対応すべく、2020年から全社の働き方改革については人事総務部を中心に、業務改革については各支店の推進チームを中心に進めていました。業務改革推進チームには、過去に現場を経験したことがある人も含まれているため、現場課題から改善策をいくつも検討していっていました。ある日、その推進チームが、より現在の現場課題を解消できるようにしたいと考え、現場に話をしにいったところ、次のような返答がありました。「業務改革は推進チームに任せている。我々は現場作業で忙しいんだ」
結局、この現場変革は、支店の中で最後まで進まず、アナログ業務は残ったまま。デジタルに慣れている若手メンバーが離れやすい組織になってしまいました。
解決策:「アンバサダー制度」「社内コミュニティ」を作る
1990年代は、少数精鋭のリーダーシップチームによるトップダウン型のチェンジマネジメントアプローチが一般的でした。しかし、不確実性が高い昨今においては、変革を妨げるすべての障壁に対して、トップダウン型のチェンジマネジメントでアプローチするのでは、十分なスピードで対応することは困難です。つまり、組織の変革に対して支援・支持してくれる人が必要となっていきます。そこで、以前紹介した、変革を社内に広めるための「アンバサダー制度」や、前向きな人たちを繋ぐ「社内コミュニティ」作りが効果的です。さらに、組織に属するメンバーひとりひとりが、変革を実践し定着させていくためにProsci®「ADKAR® モデル」という方法論が有効です。
「ADKAR」とは、Awareness(認知)、Desire(欲求)、Knowledge(知識)、Ability(能力)、Reinforcement(定着)の頭字語です(図3参照)。人が変革を実践し定着させるためには、まずはその意義や必要性を認知する必要があります。そして、各個人の変革を促し定着させるために、ADKARの要素ごとに施策を建付け、積み上げていくことが重要です。各自が変革を習慣化させれば、組織全体の変革の成功へとつながっていきます。
一足飛びに変革を定着化させることはできませんが、チェンジマネジメントを実施することで、意図して計画的に定着化させることは可能です。まずは、社内の重要ステークホルダーを見付け、小さなWINを作るための施策からやってみませんか。
中村祥子(なかむら・しょうこ)◎2000年4月より現日立ソリューションズでソフトウェア品質保証エンジニア、プロジェクトマネージャー、システム導入コンサルタントを歴任。2019年より日本マイクロソフトに入社しカスタマーサクセスマネージャーに従事。お客様の事業ビジョン実現に向けて、デジタル活用や組織のチェンジマネジメントをお客様とともに推進。2022年11月よりINDUSTRIAL-Xにて事業開発ディレクターとして、企業DXのみならず産業DXにも挑戦中。「人生一度きり」をモットーに、東京と静岡の二拠点生活、伊豆市CIO補佐官にもチャレンジしている。