またグローバル人材にとっては、世界中から発信されているアートを通して各地域の歴史や社会、宗教などを学んでいくことが有益です。
そしてコロナ禍を経て、しばしば「ウェルビーイング」が語られるようになりました。盲目的に発展を目指すのではなく、社会全体を成熟させ、よりクオリティの高いライフスタイルを、身体的にも精神的にも、そして社会的にも健康的に求める。そうした場面でアートが担う大きな役割が、いま改めて注目されています。
他国のモデルケースから学びながら
深井:ちなみに財源は国庫から……?あるいは独法独自の資金で運営していくのでしょうか?片岡:いまのところは前者ですが、じつはそれも独法が今後抱えるであろう大きな問題です。少子高齢化で税収が増える見込みがない我が国で、国庫に頼り切るのは無理があると個人的には思っているので、民間の力も導入する必要性を感じます。そのためにはコレクションを保有している各館との協働が必須になりますが、できるだけ彼らの負担にならない体制づくりを、これから探っていくつもりです。
深井:センターの構想を練るにあたり、モデルにしたケースはありましたか?
片岡:立ち上げに際してそのままお手本にしたところはないはずですが、今後参考にしたり、いずれコラボレーションしたい事例はいくつかあります。
たとえばシンガポールでは、「ナショナル・ヘリテッジ・ボード(国家遺産局)」という組織が複数の美術館のコレクションを一括で収蔵・保管していて、購入する主体と管理する主体が分かれているんです。韓国は、国立現代美術館(MMCA)というイニシアチブの下に、複数の分館やリサーチセンターをもっています。イギリスのTATEも同様に複数施設を管理し、TATEリサーチセンターは、韓国のヒュンダイの名を冠しています。
情報資源を国家規模で扱い、発信していくということは、どの国もある程度のスケール感でやっていますね。そのあたりをリサーチしながら、日本に適した形を考えていこうと思っています。
それから作家支援でいうと、例えばオーストリアの「フィレアス」が興味深いです。民間のコレクターらが出資した組織なのですが、芸術祭のディレクターやキュレーターを招聘し、選出された作家の製作費や渡航費を援助するんです。フィレアスが出資した額と同額を国も出すマッチングファンドのシステムを形成していて、半官半民のような組織として成立。2023年からはオーストリア芸術文化省との共同による新たな組織になったようです。