片岡:はい。一方で、これからは日本のみを起点にするのではなく、少なくともアジア全体というスケールを主体とし、考えていくべきだと思います。美術館にはアジア圏からの観客も非常に多いですし、オーストラリア、ニュージーランドを入れたアジア太平洋のネットワークが、今後日本のアート振興において何よりも重要になってくるでしょう。
ネットワークを根付かせたい
深井:世界的に見て、いまだに日本は、女性のリーダー登用が圧倒的に遅れています。そのなかにおいて片岡さんは、森美術館の館長を務め、「国際美術館会議(CIMAM)」という世界規模の美術館組織の会長を兼任されました。そのご経験を持つ方が、今回センター長に就任された。何か新しいことが起こりそうな予感がしているんですけれども、センター長としての意気込みや、期待されている役割のようなものを聞かせてください。
片岡:まずは、やはり国際的なネットワーク構築の仲介をすることですね。私のネットワークって、ものすごく自然に構築されていったんです。90年代後半に東京オペラシティ アートギャラリーでキュレーターを始めた頃、グローバル化する現代アート界では中国を筆頭に、アジア全体が非常に注目され、これからはアジアの時代になると言われていました。
そんななかにいたので、非常に短いスパンで、同世代のキュレーターやアーティストのネットワークができて。私は当時30代前半だったのですが、そのつながりがいまだにものすごく活きていて、いまでは友達がみんな館長、館長はみんな友達みたいな状況に(笑)。アジア各地で主要な役割を担っている人たちとつながっているので、何か新しいことを始めようとするときに、驚くほどスムーズにことが運ぶんです。ここで、それをうまく使いたいなと。
この関係性を活用して、各国のディレクターや日本のアーティストをつないでいき、さらに日本で活動しているアート関係者たちにもネットワークを構築してもらう。20年後、世界とつながっている人たちがこの国に複数いれば、すごく強い根の張り方になると思うんです。
それから私は民間育ちということもあって、アートの側の視点も、企業の側の視点もよくよく体験してきましたから、それをつなぐ役割をしていきたいですね。
オペラシティでも森美術館でも、「現代アートってなんですか?」という環境のなかで仕事をしてきたので、逆にアートありきだった経験のほうが少ないんです。現代アートそのものや作品の意義を、どういう言葉やロジックで説明すると伝わるのかという自分なりの手応えを持っているので、それがセンターでも活用できたら。あとは、日本にはすばらしい研究者やキュレーターが多くいらっしゃるので、彼らがきちんと調査研究を「深める」ことができるような仕組み作りにも取り組んでいきたいと思っています。