アート

2023.07.04 08:30

美術館の新時代へ。国立アートリサーチセンター片岡真実の構想

深井:アートプラットフォーム事業の成果の継続に加え、NCARでは今後具体的にどういった取り組みをしていくのでしょう? また、事業の主軸は美術館の課題解決にあるのか、もしくは日本のアート振興にあるのか、どちらでしょうか?

アートをつなげる、深める、拡げる

片岡:まずは日本のアート振興のために、「コレクションの活用促進」「情報資源の国内外への発信」「国際連携・発信」「ラーニング」、そして「社会との連携」を主軸に活動します。国立美術館を中心に国内外の美術館や研究機関、さらには広く一般に向けて、アートの芸術的・社会的な価値をいかに高めていけるかを模索していきます。

B to BとB to Cの両軸で、様々な観点から少しずつプロモートしていくマルチディレクションですね。美術館の課題解決についてはこれから検討していくため、いまのところは「多方面で改善をしていく」という回答になります。

深井:なるほど。日本は、美術館やギャラリーの数では世界トップクラスを誇り、文化面では非常に充実しているはずなのですが、それを国の文化施策としてパッケージ化して押し出すというような動きが、なかなかとれずにきたように思います。NCARが中核となり、これまでバラバラだった資源を活用する旗振り役として機能されていくということでしょうか。

片岡:旗振り役というよりは、各美術館の手が及ばないところを補完するような役割になるのだと思います。「アートをつなげる、深める、拡げる」をキーワードに、国内の国立美術館に横串を刺して「つなげ」つつ、リサーチにより専門性を「深め」、広く一般にも浸透させて「拡げる」……そうしてリゾームのようにつながっていく、そんなイメージです。センターのロゴマークも、そのリゾームを表現しています。

深井:つまり全方位的にカバーするため、どこかの美術館の一拡張機能としてではなく、独立した機関としてNCARを置く必要があったんですね。

片岡:そうです。独立行政法人国立美術館の本部機能として、国立美術館のコレクションを日本の“ナショナルコレクション”として集約・発信していければ良いですよね。本当に手探りですが、まずはやってみる。それを体現していくための組織はこれまで存在しなかったので、今回が初の試みだと言えるでしょう。

深井:アート関係の取り組み、往々にしてアート界ないしは文化界に閉じてしまいがちですが、NCARの活動によりアートを「つなげて、深めて、拡げた」先に、それは社会にとってどのようなパワーになると思いますか?
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インタビュー=深井厚志 文=菊地七海 写真=山田大輔 編集=鈴木奈央

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