何より訴訟合戦は、双方に本質的なメリットをもたらさない。PGAツアーはすでに訴訟費用として5000万ドル(約70億円)を支出し、今後の対応でも1億ドル(約140億円)超の追加費用投入を見込んでいた。LIVゴルフはこれまで劣勢との声もあった。
PIFにも、このままLIVとツアーとの対立を続けるのが得策かどうか考える余地はあっただろう。
「電撃統合」のキーマンたち
この世界を驚かせた和解劇の牽引者、PGAツアーのモナハン・コミッショナーは、組織内部から昇格した元マーケティング統括責任者で、遡るとスポーツエージェンシーの先駆け「IMG」やMLBのインターネットビジネスの代理店で昇進を続けたキャリアを持つ。この4代目コミッショナーは、ツアー選手出身で選手の権益を最優先させた2代目コミッショナー、ディーン・ビーマンとも違えば、外部の顧問弁護士からビーマンに招聘されて右腕を務めて3代目コミッショナーに就任し、類稀なる能力を発揮して、22年に及ぶ在任期間中にPGAツアーをNFL、MLB、NBAと肩を並べる巨大スポーツに成長させたティム・フィンチャムでもない。
つまり、ゴルフそのものへの思い入れが強いというより、ビジネスとしてのゴルフの営利性を追求することに長けた人物というのがもっぱらの評だ。
今回モナハンの後ろ盾となったのは、PGAツアー・ポリシーボードのエド・ハーリヒー共同議長と、昨年理事に就任したウォール街の投資銀行家、マスターズのメンバーでもあるジミー・ダンである。ハーリヒーとダンは、ウォール街で20年以上のゴルフを介した友人関係で、2019年にはダンが会長を務める投資銀行のM&Aをハーリヒーの法律事務所が支援する関係にあった。
ファイナンスの世界に身を置く2人にとって、巨額の資金を動かすPIFとの関係は重要であり、ルマイヤン総裁との関係を構築維持することは彼らのビジネスにとっても有益に働く可能性が高い。
そこで、ウォール街のパワーブローカーとして実績のあるダンが、PIFとの密談をお膳立てし、先ずハーリヒーの同意を得て、モナハンに異論噴出が予測できた選手への事前説明を行わず、決断を迫ったものと考えられる。
新組織の役員には4人の内定が公表されているが、会長のルマイヤンPIF総裁とCEOのモナハンに加え、ハーリヒーとダンが取締役に名を連ねている。