LIVに移籍した選手たちのツアー復帰についても、ツアーに残った選手たちに配慮しながら、2023年シーズン終了後で検討されるという。LIVゴルフの存続についても、何らかの動きがあるだろう。いずれにせよ前述のように、ツアーに残った選手たちの不満や不信感は免れない。
選手たちは両者の対立が続くのは望ましくないことは重々理解しながらも、「裏切られた」「(モナハンは)偽善者」といった複雑な思いを口にし、一部モナハンの退任を求める声もあがっている。PGAツアーを擁護して来たマキロイも「自分は生贄の子羊のように利用された」と厳しくモナハンを批判している。
モナハンは自身に向けられるそんな批判に理解を示し、説明対応に奔走“していた”が、そう簡単に事態は収まらない。PGAツアーの歴史上で最も、否、プロゴルフ界全体が混乱している。
統合を決めたワケ
なぜ、PGAツアーは手打ちを図ったのだろうか。最大の理由は他でもない、金の魅惑である。6200億ドル(約87兆円)もの巨額の資金を擁するPIFにとっては、数億ドルの支出はマージンに過ぎない。高額の契約金や賞金のオファーにより、より世界から観戦されるツアーを構築し、そもそも賞金稼ぎを本業とする著名プロをPGAツアーから奪取することは、ある程度の時間を掛ければ不可能ではないと考えるのは自然なことだ。8大会が開催されたLIVゴルフ初年度、2022年の賞金総額は2億5千万ドル(約352億円)、1大会平均2500万ドルで、初代年間王者となったダスティン・ジョンソンが稼いだ賞金とボーナスは3560万ドル(約50億円)を超えた。
前述の通り高額の契約金も得たジョンソンそしてミケルソンは、2023年のフォーブスのアスリート長者番付トップ10に名を連ねている。
PGAツアーもLIVゴルフに対抗して、高額賞金大会を開催することにしたものの、何れにせよ金銭面では先の見えた戦いである。
選手たちの多くがいかに精神面ではPGAツアーに忠誠心を抱いていても、これだけの条件をいつまでも拒否し続けるとは考えにくい。
サウジ政府と大きな取引を行っている大手グローバル企業も、スポンサーをいつまでも断ることは困難だろう。つまり、PIFの資金力に妥協せざるを得なかったのである。
また、LIVゴルフのトーナメントのフォーマットも、選手やスポンサーにとって魅力的なものであった。
PGAツアーの大会は、水曜のプロアマに始まり、木曜から日曜までの4日間72ホールで争われ、前半でスコアが振るわない選手はカットされる。しかし、LIVゴルフのトーナメントは3日間、その名が表す通り54ホールで行われ(LIVはローマ数字で54の意)、いわゆる予選落ちもない。体への負担も少なく、精神的にも苛まれずにプレーできる環境をLIVゴルフは整えたのである。
更に、巧妙だったのは、世界4大メジャーと呼ばれるマスターズ、全米オープン、全英オープン(The Open Championship)と全米プロゴルフ選手権(PGA Championship)にLIVゴルフの登録選手も、PGAツアー登録選手と分け隔てなく参加できることを仕組んだことだ。4大トーナメント側もサウジ政府やLIVゴルフとの敵対関係を避けたということだろう。
ただし、これらのプロコンは表裏でもあった。